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**光と風の環 <始まりの刻 11> [#ze69d2d5]

RIGHT:''&color(#ffdab9,#000){著者:真悠};''
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 ここは、ラムリアの東の地、至高なるシャーラト。以前はシャーラト城を覆っていた分厚い門と壁は、ラ・リューラの命によってきれいに取り払われていた。門のあった路をまっすぐ進むと噴水がいくつも点在する。その真正面の奥には、シャーラト城が微かに見える。左右には華やかな宮殿があり、手前には城や背後の左右の宮殿を守るかのような質素だが強固な宮殿がそびえていた。

 不意にシャーラト城にある噴水が、一斉にいつもの数倍以上に吹き上がり、信じられない量の水を吐き出した。驚きを隠せないシャーラト中であちこちで叫び声が上がり逃げ惑っている人々。その大騒ぎは、シャーラト城の奥まで達していた。

「何を騒いでいるのです?」

 優しげな女性の声が響く。その声に周りの女官たちは慌てふためいている。

「そ、それが、水がシャーラト中の水がとんでもない事に。噴水は壊れたかのようにいつもの数倍の水を吐き出しているんです! 他にも風が狂ったように唸っていて、悪しき事の前兆ではないかと、皆が大騒ぎしております。」
「風と水が? 悪しき事の前兆ですって、そんなはずは…。」

 薄緑の長い髪を持つ美しい女性は静かに瞳を閉じて、物思いに耽っている。やがてその美しい緑の瞳が開かれる。周りに控えている者達は、その女性の言葉を待っていた。

「…心配要りません。この出来事は風と水の婚姻が原因です。祝福すべきの事ですよ。もう少ししたら収まるでしょうから、これ以上騒ぐ必要はありません。」

 女性の言葉に周りがホッとした表情をする。女性はそこにいる者達には気づかれぬように小さな溜息を漏らしていた。

(全く、派手な事になっているわねぇ…。)
(本当にな…。もう少し遠慮すればいいものを…。あのバカが。)

 女性の思いに呼応するように男性の呆れた様な声が重なる。

(でも、やっと結ばれたのね。あの2人…良かった。)
(……そう、だな。良いか悪いかは…何とも言えないがな…。)
(あら、貴方にとって…あの2人が一緒になるのは、気に食わないって言う事?)
(…いや、そうじゃないんだが…。ちょっと、な…。)

 男性が苦笑しているかのように言葉を返す。女性はそんな男性に呆れたように小さく肩を竦める。
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 とある湖畔。風が凄まじい唸りを上げ、湖の水が嵐のように激しく揺れている。その様子を家の中から見ている二人の夫婦。家自体もその猛り狂ったかのような風に揺らされていた。その凄まじい音に驚いて夫に抱きついている妻。

「ど、どうしたんだろう、いきなりこんな…。」
「…ああ、大丈夫だよ。まぁ、この風は風霊達のやり場のない叫びだからなぁ。…それにしても…何だってこう風霊達を逆なでするように露わにするんだか…。もう少しうまくやればいいものを…。」
「え…? 貴方にはこの風の原因が判るの? それに…風霊って…もしかして、彼女に関わる事なの?」

 妻に尋ねられ、夫は苦笑を浮かべている。

「う、ん…まぁ、そのものと言うか…少しニュアンスが違うと言うか…。」

 歯切れの悪い夫の返答に妻がプーッと頬を膨らませ、ふてくされている。

「ずるい! ローナばかり理解していて、わたしにはなんにも教えてくれないじゃない。彼女の事ならわたしだって知りたいのに…イジワルッ!」
「いじわるって、あのなぁ…言っておくけれど、俺だって全て理解している訳じゃないぞ? 特に彼女の事なんて、あいつが隠し切っているんだから判りようもないし、第一、他の女の事など知りたいとも思わないよ。」
「ひ、どーい! 彼女はわたしの大事な友達なのに、知りたいとも思わないって…。ローナ最低っ!」
「おいおい…論点がずれてきてるぞ…。」

 妻の反論にがっくりと肩を落とし深い溜息をつく夫。その瞳は家の外で激しく唸っている風に向けられていた。

(…カザマ達へのあてつけ――だけであいつがこんな事しないよな…とすると…。)
(……お互いに、それだけは考えたくないがな……。)

 ほんの一瞬、二人の男性の間で心話が繋がる。

(まあなぁ、まじめに考えたくないが…。)
(あいつなら…やりかねんか…。)

 二人の男性は諦めにも似た深い溜息を吐き出していた。何だってこう、あいつは他の者達に何も言わずに行動に出るのか、もちろん先手を打って攻撃に出るのも最大の防御になりえるが、それだって一人でやるのは限界があるのに、何故自分達の手を借りようとしてくれないのか。確かに自分達はそんな偉そうな事を言えた義理ではない事や、素直に自分達の力を借りるような人物でもない事はよく理解している。

 それでも…という思いと共に再び二人の男性は同時に深い溜息を吐き出す。
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 その衝撃はラムリアの西の果て、地の底にまで伝わっていた。がんじがらめになっている漆黒の石がその衝撃にブルブルと震えていた。

――お…の……れ…おの……れ…、&ruby(みたび){三度};に…渡り……我の…を……。許さぬ…ゆるさ…ぬぞ――

 その声のような思念のようなものは、呪いの言葉を吐き散らしていた。

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 まどろみの中、何かがエルミアを呼んでいた。それは…途切れ途切れで光のような明滅で…。物憂げな身体を起こしてボーっとした様子で周りを見ているエルミア。そこには彼女が知っているものが何もなかった。だからこそ、自分がどこに居るのかも判らない状態だった。

「…ここは…どこ?」

 いつも自分が起きた時、差し伸べてくれていた手がない事に気がついたエルミア。ふと、自分の寝ていた横を見ると見慣れぬ男性が寝ていた。

「え、えぇ!?」

 自分の身体を見ると全裸であり、何が起こったのか一瞬理解できなかったエルミアは、ベッドの端に寄って自分の身体を抱きしめて小さくなっていた。ジーっとその男性を見つめると徐々にそれが、彼女の一番愛している男性だと、またここはセイクリッドが連れてきてくれた海の中の彼の城だとやっと理解できた。

 青銀色の柔らかなウェーブのかかった髪、海のような射る様な蒼い瞳は生憎と瞼で塞がっていたが、それは紛れもなくセイクリッドの姿であった。ただ、今までセイクリッドの寝顔など見た事のないエルミアにとっては、知らない男性に見えたのであろう。

(うわぁ…セイルってこんな顔をして寝てるんだぁ…。)

 初めて、本当に彼と知り合ってから初めて彼の寝顔を見たエルミア。心臓がドキドキと高鳴っているのを止めようがなかった。恐らくセイクリッドはエルミアの寝顔は、数知れず見ているだろうが、彼自身あまり眠ることはないため、エルミアがセイクリッドの寝顔を見るというのはとてつもなく珍しい情景だったのだ。

 じっとセイクリッドの寝顔を見つめていたエルミアの耳に再び途切れ途切れの何かが、彼女を呼んでいるように聞こえた。首をかしげ周りを見回すが、何もない。だが、何かがこの城の中で自分を呼んでいる。

 その何かを探すべく、彼女が着ていたサラーナをベッドの下から見つけ、素早く着替え、セイクリッドを起こさないように静かにそっとその部屋から出る。

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 微かな光の明滅が、自分を呼んでいるような気がする。自分を呼んでいるものの確信はなかったが、寝室の隣の部屋のドアノブに手をかける。隣の部屋といっても、かなりの距離がある。セイクリッドに案内してもらった時も思ったが、無駄な部屋がないため、部屋から部屋の距離は、かなりのものだった。

 だが、何かが確実にエルミアを呼んでいる。頭の中に呼び声が聞こえるのだ。かと言って、悪いものではないという、変な確信もあった。

 途切れ途切れに聞こえる声…というより光かもしれない。セイクリッドが『剣の墓場』と言ったドアを開けると、淡い蒼い光が部屋に渦巻いていた。一瞬びっくりするエルミアであったが、その蒼い光には覚えがあった。あの悪魔と対峙した時と自分の中の女と向き合ったあの瞬間、まるで自分を守ってくれるかのように包み込んでくれた光。

 それを理解すると、蒼い光に初め戸惑っていたエルミアの顔に嬉しそうな笑みが浮かぶ。

「あぁ、そっかぁ…貴方達がセイルと一緒になってあたしを助けてくれたのね…。本当に…ありがとう…。」

 エルミアの言葉に部屋に渦巻いていた蒼い光は、喜んでいるかのように柔らかく明滅している。エルミアは微笑を浮かべてその部屋をぐるりと見渡していた。自分を呼んでいるものを探すのに夢中で、背後への注意は全くなかったエルミア。その彼女は突然、背後から誰かに抱きすくめられた。

「き、きゃぁぁぁ!」

 エルミアは突然の出来事に叫び声をあげるが、その声は最後までつむがれず途中で背後から抱きしめる者の手に塞がれた。エルミアの驚きの声に蒼い光たちが一瞬消え去っていた。

「あのなぁ…このボケ、ここであまりでかい声出すな。せっかく穏やかに眠っている奴等が起きるだろうが。」

 その声は、先ほどベッドで寝ていたはずのセイクリッドだった。思わず抱きしめられながら真っ赤になるエルミア。

「え、な、何で…。」

 セイクリッドはエルミアを背後から抱きすくめ、その耳にキスを落とす。それがあまりにくすぐったかったのか、エルミアが身体を動かす。

「何で…じゃねぇだろう? 目が覚めりゃお前がいなくて…フィンの方こそ、この部屋で何をしていた?」

 セイクリッドの声がエルミアの耳に囁かれる。抵抗を忘れたかのようにその腕の中に身体を委ねるエルミア。

「フィン?」
「あ、あの…ね。何かが…あたしを呼んでいて、それで…。」
「は? 何かって何が?」
「わ、判らないけど…この部屋から聞こえてきたようだったの…。」
「フィンを呼ぶ声が、この部屋から聞こえてきた…って。」
「う、うん…そして、この光達に助けてもらったから…お、お礼を言っていたの。」

 セイクリッドは抱きすくめていたエルミアの身体を自由にした。いつの間にか消えたはずの蒼い光がふわふわと現れる。エルミアはセイクリッドの顔を見つめていた。

「なるほど…な。」

 エルミアの言葉にセイクリッドは、納得したように部屋の奥の方へとエルミアを促した。エルミアも戸惑いながらセイクリッドの後を追う。

「本来なら…最初に見せるべきだったんだよな。多分フィンを呼んでいたのは、こいつだぜ。」

 セイクリッドが指差した所に在ったのは、剣とも言えない、欠片であった。その様は大きな戦いで剣が折れたかのようにも見える。

「これが…?」

 セイクリッドを見上げてたずねるエルミアに、セイクリッドは小さく頷いていた。確かにセイクリッドの言った通りかもしれない。エルミアを呼ぶ声というか、光の明滅がこの剣から出ている。

「覚えがないか?」
「え? …覚えって…。」

 セイクリッドの唐突な質問にエルミアは、その剣の欠片を手にとってじっと見つめていた。普通の剣のように白銀の光を放っていた。ただ他の剣と違うのは、折れたところに沿って、黒いシミが付いていて、その剣の欠片を持つと、何故かエルミアの心臓が鷲掴みにされるように苦しくなると言う事だった。他のどの剣にもそんな事はなかったのに、何故?

 そう思っていたエルミアはビクッと身体を硬直させ、小刻みに震えていた。

「ま…さか、これって!?」

 セイクリッドの顔を見ながら震えるような声を出すエルミア。セイクリッドも何も言わずエルミアを見つめていた。エルミアは、セイクリッドのその態度に思わず剣の欠片を抱きしめていた。ボロボロとエルミアの瞳から涙がこぼれてくる。

「かあ…さま……の!」

 エルミアの涙がその剣にパタパタと零れ落ちる。それは、エルミアの母サーフィアの持っていた剣の欠片であった。自分と父を守るためだけに全ての想いをこめて、超常力の通じないセイルースに投げつけて避けられ叩き割られた母の剣。
このセイクリッドの城の中に流れ着き、ひっそりとここで眠っていたのだろう。自分がここに来た事で、その眠りから覚まさせてしまったのかもしれない。

 その光の明滅が蒼く大きく瞬く。

「か、母様!」

 エルミアの叫び声にセイクリッドがパチンと指を鳴らす。すると光の明滅が言葉になる。

(愛しい私の娘…最後まで守れなくて…ごめんね。一人にして…ごめんね。貴女を不幸にしてしまった私達を許して…。本当に貴女を愛していたのよ…。私の可愛い娘、愛しい娘…。)

 何度も何度も同じメッセージがエルミアに届く。エルミアは瞳から涙をボロボロこぼしながらその声を聞いていた。セイクリッドの両手がエルミアを包み込む。エルミアはセイクリッドに抱きしめられながらも、メッセージを繰り返すサーフィアの剣の欠片に声をかける。

「違うわ…母様…あたし、ちっとも不幸じゃなかったわ…。父様と母様に愛されて…色々な事を教えてもらったのに、あたし…お2人に何も返せなかった…。愛してもらった何万分の一も返す事が出来なかった。あたしのせいで…2人を死なせてしまったのを…ずっと悔やんでいたの…。本当にごめんなさい…。」

 エルミアの言葉に同じメッセージを繰り返していた剣の欠片が、エルミアの前でフワリと人の形を取る。それはもう見る事の出来ないはずのエルミアの母、サーフィアであった。エルミアはその様子に驚愕していた。

「母さ、ま…。」

 セイクリッドに抱きしめられながらも、エルミアの身体は止めようがないほどに震えて、涙がとめどなく流れていたが、セイクリッドもそれ以上、エルミアの震えを無理に止めようとはしていなかった。
フワリと柔らかな笑みを浮かべるサーフィアの影。

(…大きく…なったのね。私達の愛しい娘…フィン。とても美しくなって…。私達の死は…最初から決まっていた事なのよ。だから…貴女が気に病む事でも、後悔する事でもなかったの…。なのに、私達の死が貴女をずっと苦しめてきたのね…。ごめんね…貴女を苦しめてしまって…。悪い父様と母様よね…。)
「違うわ、母様! あたし、あたし…本当に父様と母様の子供に生まれて、色々な事があったけれど、それでもあたしは幸せだったのよ。2人の子供でなかったら、逢う事のなかった人たちとの出会いや、父様や母様に会えたことにも感謝しているの…。
今もね…幸せなの…。本当だよ。」

 エルミアの言葉にサーフィアの影が涙を光らせながらも微笑を浮かべる。

(…ありがとう、貴女からそう言ってもらえるなんて…。そう、もう貴女は小さい頃の貴女じゃないのね。……貴女が幸せであるか…それだけが私達がずっと思っていた事なの、よ…。)
「う、うん…心配しない、で…。今も幸せだから…。もう二度と…逢えないと思っていた母様にも…逢えたんだもの…。それだけで…あたし、また頑張れるから…。」

 エルミアの声は、しゃくりをあげながら涙声になっていた。サーフィアの影はうれしそうに微笑むとエルミアを守っているセイクリッドを見つめていた。

(…そうですか…貴方が、この娘をこれから守ってくださるのですね…。私達の愛しい娘をどうか…よろしくお願いいたします…。)

 サーフィアの影に言われセイクリッドはフッと苦笑いを浮かべた。

(…フィン、私達の愛しい娘、どうか幸せにね…。)
「母様、あたし本当に父様や母様が大好きよ。2人の子供に生まれてこれて…良かったと思っている。たくさん…たくさん愛情をありがとう。可能ならいつか、いつかまた二人の間に生まれたい。今度は、こんな悲しい別れではなく、愛情を一杯父様や母様に返したいの。」

 エルミアの言葉にサーフィアの影は、エルミアを抱きしめるかのように両腕をエルミアに伸ばしていた。エルミアもまたサーフィアの影に両腕を広げていた。ほんの一瞬だけエルミアの肉体とサーフィアの魂が触れ合ったように、二度と再び戻る事のないぬくもりが交差する。蒼い光がサーフィアの影を取り囲んでいた。

「母様?」
(…ありがとう、そんな事を言ってくれて…。とっても貴女を愛していたわ…私達の可愛い娘フィン…。ありがとう…もう、還るわね…。私も…貴女と一緒に過ごせて幸せだったわ。遥か未来でまた逢いましょうね。)
「え、母様!?」

 サーフィアを取り囲んでいた蒼い光はひとつになるとその場からサーフィアの姿がかき消える。エルミアは慌てて母の影を抱きしめようとしていた。だが、それは一足遅くエルミアの手の中に在った剣の欠片が、一際大きな蒼い光を放ったかと思うと、サラサラと音を立てて、光の中に崩れていく。慌ててその塵を拾おうとするエルミアだったが、それはまるで全てを終えたと言わんばかりに光の中に消えていく。

「…いや…逝っちゃいや! 母様!」

 剣を留めようとして叫んでいるエルミアを抱きしめるセイクリッド。

「……剣は主の思いを抱えている。それが昇華されあんなふうに光の中に消えていく事は、そう滅多に遭遇できる訳じゃないんだ…。お前に逢えて、お前が幸せだと判って納得したんだよ。」
「で、でも…だって! そんなんじゃ、二人の形見が…!」

 エルミアはセイクリッドに抱きしめられるままに泣き声をあげていた。父の形見であった剣は、既に自分の手元にはない。ロドの剣と融合してしまったのだ。母の形見ですら、今しがた昇華と伴って消え去ってしまい、自分の手元には何も残らない。そんな後悔が、彼女を泣かせていた。
 セイクリッドもそんなエルミアの気持ちが良く判ったからこそ、背後から彼女を抱きしめながら、時にその白銀の髪の毛を優しく撫でながらエルミアを泣かせていた。

「形見等なくても、お前が幸せであれば、それだけであの二人はうれしい事なんだよ。むしろ、お前を苦しめるかもしれない形見を残して逝きたくなかったんだ…。
…正直言うと、あれを見せたらお前が泣き続けると思っていたが…。よく…頑張ったな。それに良かったじゃないか、お前が両親に伝えそびれた事を伝える事が出来たんだから…。」

 セイクリッドの穏やかで優しい声にその胸で泣いていたエルミアも小さく頷いていた。
 蒼い光はサーフィアの昇華された事に喜んでいるのか、一斉に部屋の中を蒼く灯していた。それは本当に幻想的であった。セイクリッドと一緒に見た聖帝国ムーの光の絶景と同様に、涙が出るほどの美しく懐かしいような景色であった。泣きじゃくりながらエルミアも素直に言葉にしていた。

「…すごい、ね。ライベル・トゥーカと同じぐらいに…ううん、もしかしたらそれ以上に綺麗だね…、この蒼い光達は…。」

 その言葉にセイクリッドは、苦笑せざるを得なかった。

「フ…はっきり言えば、この光はそれぞれの剣に宿った想い…。&ruby(あるじ){主};達の命でもある…。それが自然の織り成す絶景より綺麗だって言うのは、お前ぐらいかもしれないな。…だからこそ、こいつらも自らお前を助けたのか…。」
「え…?」

 セイクリッドを振り返ったエルミアの顔を見て、思わずクスッと笑うセイクリッド。

「全くな…フィンがこんなに泣き虫だったとは思いもよらなかったぜ? 目も真っ赤じゃねぇか。一体何年分の涙なんだ?」

 セイクリッドのからかったような言葉に、思わず頬を染めるエルミア。

「だ、だから、こんなに泣き虫で悪かったわね…! だって自然に出てくるんだもの。仕方ないじゃない。」
「仕方ないねぇ…まぁ、いいか。フィンの涙はある意味苦手だけど、それでもお前の涙を見ると、マジにそそられる。もっと俺の腕の中で泣かせてみたくなるほどにな…。」
「え…ば、馬鹿! 何を…。」

 セイクリッドは、ますます真っ赤に染まっているエルミアを正面から抱きしめ直していた。そして彼女の額、瞼、頬や耳、うなじにゆっくりとキスを送る。

「…ぁ…。」
「愛してる…フィン…。」
「ぁ…ん…。」

 エルミアの耳元で囁くセイクリッド。その囁き声に反応するエルミア。そんなエルミアにフッと笑みを浮かべゆっくりとエルミアの唇に自分の唇を重ねていた。エルミアもセイクリッドの唇に抵抗する事無く、頬を染め身を任せていた。それは二人きりで重ねるささやかな刻だった。

【…創世の娘よりもその娘を選び取ったか…我等に拒否は出来ぬという事だな。】
【わざわざ苦難を選ぶとは…あやつらしい…。いや、あやつめは苦難とも思っていないのであろうな…ただ、あの娘と共にありたいか…。それ故、全てを捨てようなど、まことに不器用な奴よ…。】

 時霊王のラーディスと空霊王のアルセリオンの呟きがひっそりと、セイクリッドの城の中に吸い込まれていった。



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