CENTER:[[Novel]] CENTER:Legend of origin 〜創世神話〜 #hr #navi(origin) **第1部 誕生 <聖帝国ムー> [#wd3b4a47] **第1部 誕生 <聖帝国ムー 4> [#wd3b4a47] RIGHT:''&color(#ffdab9,#000){著者:真悠};'' RIGHT:&counter; 私の心配をよそにセイクリッドとロドリグスは、セロルナの元へと駆けていった。 荒療治は良いけれど、本当に大丈夫なのかしら? ……ううん、何より私が気にくわないのは、あの2人の血の気の多さ! それにどことなく楽しんでいるように見えたあの2人の顔! 大丈夫だってアステルは言っていたけれど、それはあの2人の元にいる人達だけかも知れないじゃない。 じゃぁ……セロルナ達はどうなるの? そこまで考えていて、ふいに頭に浮かんできた怖い映像。真っ赤に染まって倒れている3人の姿。 ダメよ! それだけは絶対にいや! そう思った瞬間、私の身体と心がフワリと離れた。 な……なに? これは! 驚いている私に気の聖霊エアが語りかけてくる。 【大丈夫よ、エリュクス驚かないで……。これは私の贈り物よ。精神を望むところに運んでいるのよ。……みんなが心配なんでしょう?】 「う…うん、でも……セイクリッドやロドリグスに見つからないの?」 私の言葉にクスクス笑うエア。 【まだ、彼等は精神感応には目覚めていないから、知られることはないわ。 でも、何を見ても超常力ちからを使ってはダメよ。 でないと、今の貴女は肉体に戻れなくなってしまうから。】 エアの不思議な言葉に頷くと、エアが私を導いてくれた。目の前に眩しい光景が広がった。 #hr 「た、大変だぁ!! セイクリッドとロドリグスが!!」 慌てふためくみんな。そこにマーナ(自分の生命力を源とする&ruby(ちから){超常力};)の大爆発。この気は、セイクリッドのものだわ! 何てことするのよ! 怪我させないって言ってたじゃない! 逃げまどうみんなの側で、再び違うマーナが発動する。 これは……ロドリグスのマーナだわ! あの2人……言ってる事とやってる事が違うじゃない! 冗談じゃないわ! なんとしてでも止めなくちゃ! 慌てた私を制止したのは、エアとアルセリオン。 【エリュクス、今は手を出してはいけない!】 【そうよ、良くご覧なさい。2人のマーナは誰か一人でも傷つけている?】 え? あ……そう言えば、セイクリッドとロドリグスのマーナは、誰をも傷つけていないみたいだわ。どう言う事? アルセリオンがクスクス笑い出す。 【あの2人……なかなかやるなぁ。本来ならシューナ(神々の超常力を借りるもの)か、セーナ(聖霊達の超常力を借りる)の方が楽なのに、わざわざ自分達のマーナを使っているのか。 しかも人の居ないところでの大爆発。狙いが正確だと言う事だな。】 【でも、彼等にとっての効果は大きいわ。】 いつでも冷静な聖霊達。ホント……だ。 セイクリッドもロドリグスも人が全く居ないところで、マーナを爆発させている。 でもその激しいマーナだけでも、統治者のいないここでは、大騒ぎになるわ。 「落ち着け!! よく見て見ろ! 誰か怪我でもしているのか!? 今はいたずらに騒ぐな!! 冷静になれっ!!」 ふいにセロルナの声が響く。セロルナの身体から蒼いオーラが吹き出している。 うわぁ……あれって、セロルナが本気で怒っているんじゃないの? 「ロドリグス! セイクリッド! これ以上皆をいたずらに怯えさせるなっ! 一体どういうつもりだ!?」 「ほぉ……? セロルナ、言う事だけは良いな。だがどうだ? この有様は? 聖帝国ムーなんて気取ってみても、結果は俺達が言った通りになっただろう?」 「……っ! だからと言って攻撃しても良いってのか!?」 「せっかく国の基盤を出来上がらせたんだ。俺達が存分に使ってやるよ! ただし、俺とこいつの独裁でね!」 ロドリグスとセイクリッドの口元が歪む。&ruby(はた){傍};から見ていると、本当に悪人みたい! 「させるかっ!!」 セロルナが蒼いオーラを吹き上げて2人が待ちかまえている空へと飛翔する。 セイクリッドとロドリグスもそれに応戦するように美しい青銀色と紫のオーラを吹き上げる。 セロルナは、セーナとマーナを駆使して2人に攻撃を掛ける。一方、セイクリッドとロドリグスは、自分達のマーナしか使わない。 3人の激しい攻防。空の上で起こる大爆発をなす統べなく見守っているみんな。 私もただ見ているしか出来ない。そう……あの2人がやると言った以上、下手な手出しをすると怪我をするのはセイクリッドやロドリグスの方だわ。 お願い!! セロルナ! 気が付いて! その2人の言葉は本心じゃない! 本気じゃないのよ! ああ、何てもどかしいの!? 見ているだけしか出来ないなんて……。 一方、地上でも冷静になったみんなが、2人の率いた200人と戦っている。 もう……もうやめて! 何故お互いが傷付けあわなければならないの!? いやよ。これ以上我慢するのは…。 そう私が思って、シューナを使おうとした刹那―――。 「誰が一人や二人の独裁にさせるかっ!! お前達にもそれは許さない! この俺が皆を守って見せる!」 セロルナの叫び声と共に蒼い閃光が2人を襲う。激しいほどのセロルナのマーナを避けながら、2人の唇に笑みが浮かぶ。 そうだったのね……それを彼に言わせたかったのね? それにセロルナを中心にして、みんながまとまっていく。 良かった……争いの危機は去ったのね? でもあの2人は、どうするの? どうやってこの場を治めるの? 不意にセイクリッドが、口笛を吹く。それが合図になって、200人の仲間達が次々に退いて行く。 ……あんな合図なんていつ打ち合わせをしていたの? でも、なかなか&ruby(キザ){気障};な事をするのね。小憎らしいほど……。 でも、何だってこんなにハラハラさせられるの!? これからこういうのが多くあるのかしら? ……はぁ……あんまり考えたくないわ……。 セイクリッドとロドリグスは、みんなが戻ったのを確認すると不敵な笑みを浮かべセロルナに宣言したわ。 「&ruby(こんせいび){今星日};は、これで退く! だが覚えておけ! 俺達は、いつでもこの国を落とせるっていうことを。」 だからぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 何だってそぉゆう事を言うの!? それって丸っきりの悪人じゃないの! 貴方達には似合わないわよ! ……あ、でもある意味……似合っている……かもしれない……なぁ。 セイクリッドとロドリグスはそう言うと空間の中に姿を消したの。その様子を呆然としながら見送っているセロルナ。セロルナを取り巻くみんな。 口々にセロルナが、統治者だと言っている。 そうよ……そうならなければ、彼等が何のために悪役に徹したか判らないわ。 セロルナ……2人の努力を無駄にしないでね……? でも……私が言わなくてもセロルナは、あの2人が何のためにあんな事をしたのか判ったみたい……。 (あの2人がこんな事をしたのは……聖帝国ムーのため…か? そのために自ら汚名を着たのか!? そんな……! 本来なら俺の役目だったのに!) セロルナの後悔にも似た声が私に響く。良かったわね……セイクリッド、ロドリグス。 セロルナは、貴方達のしたことの意味を判ってくれたわよ。……もしもセロルナが彼等のやった意味を理解しないようだったら、そのときは、この私が乗り込むわよ。 【さあ、エリュクス。あの2人の元に戻りましょう。今ごろは大騒ぎよ。】 エアがニッコリと微笑む。そうね、戻らなくちゃ。 でも、今回の事でつくづく自分が情けなくなってしまったわ。もっと他にもやりようはあったはずよ。誰かを悪者に仕立て上げるんじゃなくて……。 今星日の事がいつ、どんな時にでも通用するとは思えない。 そのために私は何をするべきなのかしら? ……まずは自分をもっと鍛えなくちゃ……。こんな風に一人取り残されるのは、もういやだわ。 私にも何か出来るはずだもの。そう……私にしか出来ない何かが……。 私はエアとアルセリオンに導かれて、彼等より一足先に自分の身体に戻ったの。 自分の身体を離れるときもそうだったけれど、戻る時もちょっといやぁな感触。 ほんの一瞬だけなんだけど、身体と&ruby(こころ){精神};がかみ合わないと言うか、自分が消えてしまいそうと言うか……。 目眩もするのよね。でも……これに慣れていかなくちゃね。 もしかすると身体と精神の離脱って今後にも役に立つかも知れないものね。 しばらくして、あの2人が率いた200人が戻ってきた。そして遅れてあの2人も……。 よくよく見るとみんなあちこちに怪我をしている。 ど、どうして!? セロルナ達は無傷だったのに! ―――あ、まさか彼等を傷付けまいとして、手加減したの!? 「大怪我をしている者から治すからこっちに来るんだ! みんな済まなかったな。」 「大丈夫か? お前達にもずいぶんな無理をさせてしまったな。」 セイクリッドとロドリグスの2人は、自分の事も構わずに次々に怪我をしている者達を治す。ちょ……ちょっと待って。この2人が一番酷い怪我をしているじゃない! 自分を治すのが先決でしょう! それに200人全てが大なり小なり怪我を負っているのよ! それを傷ついた身体で治そうなんて、自虐行為じゃない! 「どいてちょうだい! 貴方達では、治癒能力が足りないわ!」 「エリュクス!?」 「駄目だ! お前を巻き込むわけには……!」 「やかましいわね! これだけは譲れないわ! 大体気が付いているの!? 貴方達2人の方が、みんなよりずっと酷い怪我を負っているのよ! そんな身体で、みんなの治癒なんて出来る訳無いじゃない! どうせセロルナのマーナとセーナを貴方達の全てで、受け止めたんでしょう!? 死に急ぎたいの!?」 私の言葉に呆然としている2人。 「……って…どうしてそれを知っている……!?」 セイクリッドが言葉を続けようとした時、私の身体から金色の炎が舞い上がった。 そしてそれが白金に輝く。熱くない炎。 光の乱舞のようなものが、みんなの頭上に輝く。そうしてゆっくりとみんなの身体に&ruby(きら){煌};めく光。 あら……綺麗♪ ふぅん♪ 私もなかなかなものね♪ 自分で自分の放ったマーナに感心していた私。 白金の光が消える頃、みんなの身体から怪我が全て消え去っていたの。 そしてセイクリッドとロドリグスが、ゴクリと生唾を呑み込み、恐る恐る私に尋ねる。 「……エ…リュクス……? そんなにマーナを放出して……大丈夫なのか……?」 「何故?」 「な……何故って……マーナでの治癒は、かなりの体力と超常力を使うはずだろう? シューナやセーナ……を使った訳じゃないのに……。」 「? 別に何ともないわよ。大体これぐらいで、お父様やお母様の超常力や聖霊達の超常力を使う訳にはいかないでしょう?」 私の返事にセイクリッドとロドリグスが、互いの顔を見合う。 「本当に……辛くないのか?」 「……何よ、それってどういう意味なの、セイクリッド? まさか私の事を化け物じみているなんて言うんじゃないんでしょうねぇ?」 私の言葉(半分脅しみたいなもの)に首を力一杯横に振るセイクリッド。 ……ほんっとーに失礼な奴ねぇ! でも……この2人なりに私の事を心配してくれたのかしら? 「うふふー♪ もしかして貴方達、私の心配をしてくれたの?」 私の問いかけにそれぞれプイとそっぽを向く2人。絶対に可愛くない!! あら……? でも一瞬顔が赤くなっていたような……。 見間違い……じゃなさそうね? 何だか気分がいいわぁ。 ふ…とその時、気が付いたの。強い治癒のマーナ。 これが私なんだって……。確かに聖霊やお母様達に教えられたわ。 治癒の能力が、一番超常力も体力も使うって。……でも私はまるで息をするかのように治癒の超常力を使いこなせたのよね。 そうかぁ、じゃぁこれからは私だって足手まといにはならないわね。 良かった♪ 私がクスクス笑い出すと、セイクリッドとロドリグスは、さも不気味そうに私を見ている。こいつら〜〜〜〜〜〜!! 今に見てらっしゃい! 絶対に痛い目に遭わせてやるんだから! もう、こんな2人なんて無視よ無視! 私はみんなに振り返って、ニッコリと微笑んだ。 「でもみんな、憎まれ役……お疲れさま。辛かったでしょう?」 私の問いかけにアステルが、セイクリッドやロドリグスを気にしながら答えてくれた。 「あ…いや……俺達は、2人に惹き付けられたようなものだから。本当に辛かったのは彼等だと思うんだけど……。」 「別に&ruby(けんそん){謙遜};しなくても良いと思うわ。最後に撤退するときの合図って、最初から決めていたことなの?」 キョトンとした顔をするアステル。 ? 私何か変なことを言ったかしら? 2人も何故それを知っているというような顔をしているし……。 「え……別にそう言う訳じゃ……。でも本気で戦いを仕掛けた訳じゃないし、セロルナが言い切った言葉で、ロドリグスやセイクリッドが嬉しそうに笑っていたし……だから……かなぁ?」 う〜ん……模範的な回答ね。 アステルほどの人が、あの2人を立てるなんて……。まあ、でも確かに判るような気もするわ。 小憎らしいけれど、確かにみんなをまとめる力はあるわよね。……私だって、この2人に頼ってしまったんだもの。 ただし! 性格がそれに伴っていないんだけど……。 あ! そうか、そうだわ! この2人だって、統治者と呼ぶのに相応しいんだわ! そうよ! 誰か一人だけって思うから、あんなややこしい事になったのよね? 人を惹き付け、なおかつあまりある魅力! それだけの能力はあるのよ! 私は思わず、セイクリッドとロドリグスを振り返って極上の微笑みを浮かべた。 何故か身構えている2人。 「ロドリグス、セイクリッド? あのねぇ……ちょっと提案があるんだけどぉ。」 2人は顔を真っ青にして後ずさりする。……ちょっと……! なんなのよ! その態度は!! 「貴方達……いい加減にしなさいよ。終いには温厚な私だって怒り出すわよ!」 「デ、デラスクリスタルやローレライクリスタルを両手に持つ女のどこが温厚だって言うんだ! 冗談じゃねーぞ! お前のことだ! 絶っっっっっっ対何か企んでいるに決まっている!!」 ―――その一言が死を招く。 私はセイクリッドの言葉にニッコリと微笑むと、デラスクリスタルを巨大化させセイクリッドに叩き付けたの。 ケラケラと笑う聖霊達の声が聞こえる。 セイクリッドってば、紙一重でデラスクリスタルを避けたのよ。 ……ちっ…、ちょっとばかり目測を誤ったかしら? でもさすがにセイクリッドを封じ込めるためのデラスクリスタルね。 すぐ側に落ちても封印はしっかりと効いているようだわ。 セイクリッドは、デラスクリスタルの威力で硬直しているし、ロドリグスも大きな冷や汗を掻いて真っ青になっている。 他のみんなもシーンと静まり返っているし。 「どう? 少しは黙って話を聞こうって言う気になった?」 ロドリグスは無言でコクコクと頷いているわ。 「セイクリッド? 貴方はどうなの?」 「……ば良いんだろう…」 「はい? 聞こえなかったんですけれどぉ?」 「き……聞けば良いんだろう! 聞けば! だから、これをなんとかしろぉ!!」 そうそう、最初っから素直にしていたら私だってこんな事をしなかったのよ。 でも……何故他のみんなも静まり返っているのかしら? デラスクリスタルとローレライクリスタルを消し去ると、ようやく2人がホッとした顔をする。 「ねぇ、貴方達は実のところ、一つになった聖帝国ムーを見てみたいのよね?」 私の言葉に反論しようとしたセイクリッドの口を塞ぐロドリグス。セイクリッドを&ruby(なだ){宥};めている。 ふーん……やっぱりロドリグスの方が兄だけあるわねぇ。まだ分別というものが付いているようだわ。 まあ良いわ、話を続けましょう。 「そこで提案があるの。どうせなら聖帝国ムーを別の視点で見たらどう?」 「はぁ? それって…どう言う事なんだ?」 「ん〜、そうねぇ。多分セロルナはあの容姿もあるけれど今後“光の王”と讃えられるでしょうね。それに対峙するつもりはないけれど、彼等が道を踏み外さないように見守る“聖なる闇”の存在が必要になるの。 お母様は、私に教えて下さったわ。光あれば闇もまたある……と。」 私の言葉にビクンと跳ねるように応える2人。 「ちょっと待て!! まさか俺達にそれをやれって言うのか!?」 ロドリグスとセイクリッドが声を揃えて叫ぶ。 んふふふふふー♪ さすがに頭の回転は速いのネ♪ 「そのまさかよ。でもそんなに大きな声出さなくたって良いじゃない?」 「エリュクス! お前一体何を考えているんだ!?」 「何を考えているって、この世界の平穏よ。私はこの美しい大地を争いなんかで汚したくないだけだわ。」 そうよ、それ以外の何があるというの? 今なら判るわ。 あのとき見た暗闇の中での3人が真っ赤に染まって倒れている姿。 あれは未来の一つの分岐点だったって言う事が……。でも彼等は自分達でそれをはね除けた。 そして新しい未来を作り上げたのよ。 今ではすっかり真っ赤に染まっている姿なんか見えないもの。 決まっている未来なんてないんだって、貴方達に示して欲しいのよ。 そして、こうして話している間にも私の脳裏に浮かんでくるいくつもの未来。 それはこの国だけじゃなく、私達全てに関わること。何よりも……もしここでこの2人が「うん」と言ってくれなければどの未来よりも恐ろしい事が待ち受けているの! そんな事で、この世界を……この大地を……いいえ、何よりも私達のお母様を暗黒に染めたくないの! お願いだから! それを判ってちょうだい! 私は祈るような気持ちで2人をじっと見つめていた。 #navi(origin) CENTER:[[Novel]]