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CENTER:Legend of origin 〜創世神話〜
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**第1部 誕生 <聖帝国ムー> [#wd3b4a47]
**第1部 誕生 <聖帝国ムー 2> [#wd3b4a47]

RIGHT:''&color(#ffdab9,#000){著者:真悠};''
RIGHT:&counter;

 皆が私を待っていてくれたの。口々に私を迎えてくれる。

「どうしたの? 遅かったじゃない、エリュクス。あら? 髪の毛が濡れているわ。」

 セイクリッドは、先に来ていたのね?
本当にみんなになんにも言ってないのかしら? ふと彼を見つめると、何事もなかったかのように振る舞っているセイクリッド。

「あ……ちょっと水浴びをしてたの……。」

 私の言葉に皆が納得する。……私が泣いたこと、みんなには言ってないんだ。
ふぅん…ほんの少しあいつを見直したかな?

「それにしても、この10&ruby(きんせいじつ){金星日};で、ずいぶん友達が増えたわね。
ふふ♪ 何だか嬉しくなっちゃう。&ruby(こんせいび){今星日};は、何を話しましょうか?」

 私の問いかけにみんなが口々に色々なことを話し始める。丘の向こうで、綺麗な花畑を見つけた事。初めて食べた果実のおいしさ。
自然の美しい色合い。

 それは私達がそれぞれ見つけた初めての事。それをみんなに話して共有しあうの。
心地のいい一時なのよ。そんな中、セロルナが私達に提案する。

「俺、ずっと考えていたんだけれど、このままでも十分にやっていけるとは思うんだ。
でも、どうだろう? もっとお互いに過ごしやすく出来るように一つの集合を作っては?」

 セロルナの言葉にみんながシーンとなって耳を傾ける。そう、あまりにも突拍子のないことだったから。

「セロルナ? 集合って……なんなの? 詳しく説明してよ。」

 同じ空から生まれた一人の女の子がセロルナに尋ねる。うん、私も聞きたい。
集合って何を? なんのために?
セロルナは、ニッコリと微笑んで、説明をしてくれた。

「ここは、父上や母上、そしてその同胞達が作ってくれた楽園だろう? それをより良くするんだよ。全ての大地を俺達の暮らす『国』にするのさ。」
「国って……なんだい?」
「判りやすく言ってしまうと、みんなをまとめるものだよ。ほら、俺達はいろんな能力をそれぞれ持っているだろう?
それをお互いのために使って行くんだ。一人一人がバラバラではなく、一つになるんだよ。
今と同じようにみんなで決めて、みんなでこの世界をもっと良くしていくのさ。」

 まあ……セロルナってばすごい事を考えるのね。でも本当に面白そう。
他の子達も期待に満ちた顔をしている。
うん、確かにみんなでやるなら、とっても楽しいかも知れない。
ほとんどの子達が瞳を輝かせ、賛成と言っている中、反対者が一人。

「……俺は、そんな考えに賛同は出来ないね。」

 それはセイクリッドだった。―――前言撤回!
見直したけれど、やっぱりこいつってとんでもない屁理屈をこねるのね!
……でも、どうして反対するの? セロルナの案はいい案だと思うわ?


「セイクリッド? どうして反対するんだ?」

 セロルナが、セイクリッドに尋ねる。……私もその理由を聞きたいわ。
セイクリッドは、&ruby(ざくろ){柘榴};をかじりながらセロルナの前に立つ。

「……よく考えて見ろよ。国を作れば、その統治者が必要となる。みんなで仲良く統治なんてできっこないんだぜ?
その後には身分が出来る。皆が皆、身分に甘んじる訳じゃねぇ。実は自分もなりたかったのに、自分はなれなかった。
そうなりゃ、互いの身分を妬んで、終いには争いが起きる。弱い者ほど苦しめられる。それが国の行き着く先だぞ。そんな事、父上や母上が望むもんか!」

 セイクリッドの言葉に暗闇の中で見た映像が思い浮かんだ。
真っ赤に染まって倒れているセロルナ、セイクリッド、ロドリグス。

 どうして、こんな事思い出したんだろう? 身体が震える。
でも……セイクリッドは、お父様達から何を教えて貰ったの?
私はそんなこと聞いてないわ。

「それをやらないようにするんだよ! やって見なきゃ判らないだろう!?」

 セロルナも負けていない。

「……やってみてやっぱりダメでしたって事になったら、誰が責任をとるんだ?」

 それまで沈黙を守っていたロドリグスまでもが、そう言いだしたの。
何故貴方までそんな事言うの? ううん……何より、この2人は、なんのために反対するの? 私には、その意図が汲み取れない。

「やらないで後悔するより、やってから後悔した方がずっと価値あると思う。
もし責任をとらなければいけない事態になったら……言い出した俺が責任をとるよ。」

 セロルナは、2人の言葉にやんわりと応える。冷たい空気が流れる。不安がみんなを覆っているのがよく判る。でもこんな一触即発の状態が良い訳がないわ。何人かが、すがるような目で私を見ている。

 ……仕方ない、ここは私が出しゃばるか……。

「3人とももうやめたら? みんなが困っているじゃない。」

 私の言葉に、セイクリッドは挑戦的なほどきつい瞳で私を見据える。どんなに&ruby(にら){睨};んだって、怖くないわよ。
だって、本当は貴方が優しい人だって判ったから。

「忘れたの? お父様やお母様達が私達に与えて下さったのは自由よ。
どんな選択をしようと、お父様やお母様は文句は言わないはずよ。ううん、もしかしたら私達の選択を喜んで下さっているかも知れないじゃない?」
「ハッ……! 甘いもんだな。とにかく俺は国を作るって事には反対だね。」
「……同感。国を作って&ruby(わずら){煩};わしいものまでも作るぐらいなら、無い方がいい。」

 セイクリッドとロドリグスはそう言うと、私達に背中を向けて去っていく。なんて分からず屋なのかしら……あの2人は……。
どうしてみんなを不安にさせるようなことを言うの?
でも……私がお母様から聞いた話では、いずれ貴方達だって……。そうよ、それはこれから判ることなのよ。

 あの2人の言葉によって、初めこそ出鼻をくじかれたように意気消沈していた私達だったけれど、セロルナの言葉に大きな期待を持つようになったの。

 みんなが一つになるためにこれからの希望に胸を膨らませたわ。そうよね、今から挫折なんて事を覚えてしまったら、それこそお母様達が悲しまれるわ。

 国を作るためにまずみんなが最初に行ったことは、住む所を造ったの。
そしてみんなで必ず守ろうという約束事を作ったの。セロルナは、彼自身が意識しないのに、みんなから絶大な信頼を得ている。
うん、とっても良い傾向よね。……ここにセイクリッドとロドリグスが居たらもっと良いのに……。

 そう、彼等はあれから、私達の前に姿を現さない。
どうしてあそこまで意地を張る必要があるのかしら? みんなが一緒じゃないと寂しいわ……。彼等はそれを判っていないのかしら?


 セロルナが国を作ろうと言った8金星日後には、本当にみんなで一つの国を造り上げてしまったの。
色々な役割を決めて、いざ、それらをまとめるという者を選出しようとした時、厄介な出来事が起きてしまったの。

 初めセロルナを信頼している大勢の人達は、彼をその統治者にしようとしたのだけれど、セロルナはそれを断ってしまったの。

 そして、その統治者に名乗りを上げる者達。それを巡っての喧嘩。
――それこそ、セイクリッドが言っていた争いの一環なのかも知れない。
彼等はこの事を知っていたから、あんな事を言ったのかしら?
セロルナは、自分達が統治者になりたいと志願する人々に責め立てられあちこちを走り回っている。

 中には、彼が国を造るなんて言い出したからだとののしる人達も現れた。
まだ何もしてないのに、どうしてこんな争いをしなくちゃいけないの?
セロルナのせいではないのよ!
みんなだってそれをやろうと言ったんだもの、私達みんなの責任ではないの?

 もう悲しくて悲しくて……。
お父様やお母様が私達に与えて下さった自由だけれど、どうしてそれを人の責任にするの?
このままだと、あの怖い夢が本当のことになるかも知れないわ。

 いやよ! それだけは絶対にいや!
 誰か助けてよ!

 こんな時…セイクリッドやロドリグスが居たら……。彼等はなんて言うのかしら?
セロルナだって口には出さないけれど、あの2人のことを待っているのよ。


 どこを探しても居ないし、聖霊達に聞いても知らないと言う。
どこへ行っちゃったのよ! あの2人は……!

 私は、あの2人が好きだった柘榴の木により掛かった。


「そーらな、言わんこっちゃねぇ。」

 ふいに懐かしい憎まれ口が私の耳に飛び込んできた。
居た! この声はセイクリッドだわ!
柘榴の木の上を慌てて見上げると、そこにはセイクリッドとロドリグスの姿。
2人とも大きな枝に寝そべりながら、柘榴をかじっている。

「……あ…なたたち! 一体今までどこに行ってたのよ!」

 私の声に面倒くさそうに返事をするセイクリッド。

「別にどこでも良いだろう? 俺の言った意味が判ったか?」
「……そ、それは……でも、これじゃぁいけないわ!」
「全く……父上達の与えた自由ってのは、無秩序のものじゃない。その中で責任を負っての自由なのにな。
欲を出すなと生まれたときに教えられただろうにそれすらも忘れてしまっているんだから、嘆かわしいな。」

 ロドリグスは呆れたように言い放った。たった8金星日逢っていないだけなのに、ずいぶん大人びた言葉を言うのね。

「で、でもこんな状態はいけないわ!! お父様達が悲しむわ! 何とか出来ないの!?」
「……知ったこっちゃねぇよ。俺は最初に言ったぜ? 国の行き着く先は争いだってね。好きにやらせておけば良いんだ。」
「確かにな。」

 セイクリッドとロドリグスがクスクス笑いながら言い放つ。
なんてとんでもない奴等なの!?

「なんて事を言うのよ!! 貴方達は心配じゃないの!?」

 セイクリッドの言葉に私の瞳から、次から次へと涙が溢れてきた。
愛しい人達がこんな諍いをするのが悲しくて、止める力があるだろうこの2人が、皆を止めようとしないのが悔しくて……。
泣き出した私に驚いたのか、セイクリッドとロドリグスは、柘榴の木から飛び降りてきた。

「な、泣くことねぇだろう!? おい! エリュクス!」

 セイクリッドは慌てているけれど、知るもんですか!! 私だって、止めようないんだから!

「……エリュクスが泣くことないぜ? あの騒ぎを納める方法はあるんだから。」

 そうよ! あの騒ぎを納める方法がある……え!?
方法がある!?
ロドリグスの言葉に私の涙も止まったけれど、ついでに息も止まったような気がした。

「ど……言う事……?」
「あの争いは、誰が一番統治者に相応しいか判っていないからだろう? 一番相応しい奴を判らせればいいだけだよ。」

 ロドリグスの言葉がよく判らない。だって、みんなそれで争っているのよ?
それを誰が一番相応しいか説明したって、納得しようがないのよ?
みんな自分が一番相応しいと思っているんだもの。

「……ったく、物の判らねぇ奴だな。あんなになっちまった連中が言葉で制止できるとでも思ってるのか?
あいつ等の目的を第三者に移しゃ良いだけだろうが!」

 セイクリッドの言葉に電撃が体中を走る。

「ま…まさか!?」

 まさかと思うけれど、この2人自ら悪者になるつもり!? 2人とも唇の端でニヤリと笑う。

「大当たり!」

 私の気持ちを読んだかのように応える2人。なんて人達だろう……ううん、誰よりも冷静なのかも知れない。

「そうでもしないと、あいつ等は一つにまとまらないだろう?」
「それに……これ以上争いが長引いたら、本当に弱い者から傷つくことになっちまうしな。それだけは避けたいからな。」

 ロドリグスとセイクリッドがウィンクする。……ああ、そうか。
セロルナもみんなを大切に思っているから自ら統治者になるのを断ったのね?
この3人が他の誰より弱い者を思っているんだ。少し……いいえ、とっても見直しちゃった。
私だったら考えつかないもの。そんな荒療治。

「あのバカ共の後始末か……ったく、今から損な役割だよな。」
「仕方ないさ。まさか今から血で血を洗うような争い事は、見たくないだろう?」

 ロドリグスがセイクリッドを&ruby(たしな){窘};める。
え? 「今から」ってどう言う事?
それに、セイクリッドだって国を造ることが争いに繋がるって言ってたわ。
この2人には未来が判るの?

 私が惚けている間、どこから探し出したのか判らないたくさんの仲間を連れてきたの。
その行動力には目を見張るものがあるわ。
逞しいというか、頼りになるというか……。でも、考えてみれば当たり前なのかしら?
何たってお父様達の血を濃く受け継いでいるんだもの。
その統率力といい、人を惹き付けるカリスマ性は充分にあるのよね。


 でも……本当に集めるだけ集めたわね。200人は居るんじゃないかしら?
みんなは2人の言葉を待っている。セイクリッドは、柘榴ををかじりながら、ロドリグスは柘榴の葉を噛んでいる。
2人とも不敵な微笑みを浮かべている。
……なんとなぁく、この2人がこんな状態を楽しんでいる…って思えるのは気のせいかしら?

 ちょっと不安だなぁ……。ううん、怖いって言うのかしら……。

「さて……とエリュクスはちょっと避けていた方がいいぞ。ほんの少しばかり荒っぽいことをやるから。」
「そうだな。危ないからな。」
「そんな! 私にも何かさせてよ!」
「言ったろ? 避けていろってね。女が好きこのんで怪我するこたぁねぇんだから。」

 セイクリッドが、私を押しのける。何考えてるのよ!
みんなのことを心配しているのは、貴方達だけじゃないのよ!
私の不満をよそに、2人は集まったみんなに声をかける。

「国は出来上がったが、愚かにも統治者を据えずに争っているこの状態だ!
このままでは父上や母上に憂いを与えるだけだ!」
「それを防ぐためにも、お前達の協力が必要だ! 俺達に手を貸してくれ!!」


 2人の言葉に賛同する200人。お願いだから無茶だけはしないで。ううんそれよりも私は不安なの。

「大丈夫。あの2人の元にいるなら、みんな無事にやり過ごすから。」

 ふいに私に声をかけてきたアステル。アステル・ド・ロフォン・グルナール。
私やロドリグスのように大地から生まれた一人。
とても誠実な人。

「あ、ありがとう。私が心配しているのはセロルナ達のことなの。あの2人なら、やりすぎそうなんだもの。」

 私の言葉に、2人が同時に私を睨み付ける。だけど本当の事じゃない?
アステルは、そんな2人に肩を竦めて私に笑いかけた。

「行くぞ!!」

 2人が号令をかける。ちょっと早すぎるわ!

「性急すぎるわ! セイクリッド! ロドリグス!」

 私は咄嗟に叫んだけれど、既に時遅し。ある者は&ruby(よくりゅう){翼龍};に乗って、ある者はアルセリオンに空間を開いて貰って、ある者はカザマの風に乗って、セロルナ達の所に向かっていった。


 その中でも一際目立つ美しい紫のオーラと青銀色のオーラ。2人は、みんなを従えてセロルナの元に飛んでいった。
ああ、何もできない自分が恨めしい!
私に出来る事と言ったら、みんなが何事もないように祈るだけ……。
天に星に地に! そしてお父様やお母様に!

 お願いみんな! 無事でいて!
絶対に危険な事しないで……。そして、セイクリッド、ロドリグス!
お願いだからやりすぎてみんなを傷つけないで!

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