CENTER:[[Novel]] CENTER:Legend of origin 〜創世神話〜 #hr #navi(origin) **第1部 誕生 <創世の娘 セレス・ファーラ> [#wd3b4a47] **第1部 誕生 <創世の娘 セレス・ファーラ 2> [#wd3b4a47] RIGHT:''&color(#ffdab9,#000){著者:真悠};'' RIGHT:&counter; エリュクスは、まどろみながら母アースや聖霊達から様々な事を学んでいた。 聖霊達は、この世界のありとあらゆる情報を。母アースからは、この新しい宇宙の全てを。 #br それが、後に彼女の運命を決める事になる。 だが、エリュクスは未だ、その事には気が付いていない。 只、優しいアースや聖霊に包まれながら、穏やかな刻を過ごしていた。全ての愛情を注がれ、想いを受け継いだのだが、ある時より、彼女の中に小さな想いが渦巻いていた。 別に何の不満もない。只、初めて感じる感情に戸惑っているのだ。 エリュクスが、新宇宙のアースから生まれて20&ruby(きんせいじつ){金星日};ほど経った頃であろうか? エリュクスが次第に元気を無くしている事に気が付いた聖霊達。 【どうしたのだ? 創世の娘よ。】 風の聖霊カザマが、エリュクスの顔をしげしげと見つめる。 藍色の髪を風に靡かせ、美しい金色の瞳をカザマに向けるエリュクス。微かに微笑むが、明らかに元気がない。 【我等が愛しの娘よ。その光が、微かに曇っているわ。どうしたの?】 光の聖霊ルシリスの言葉。エリュクスが、小さく項垂れた。 【……ふむ、それは“寂しさ”だな? 初めての感情に戸惑っていると見える。 さて、何が悲しいのか?】 闇の聖霊ルーグの言葉に、ポロリと瞳から熱いものを流すエリュクス。 「……これが、負の心なの?」 まるで自分の気持ちを恥じるように俯く。聖霊達が、優しい眼差しをしながら、揃って首を横に振る。 【そなたの中に負の心はない。何が不満なのか?】 水の聖霊ミズナの言葉に、エリュクスは首を横に振る。 「不満なんかないわ……。貴方達やお母様に包まれているのに……。 違うの……。そうじゃないの……。」 聖霊達の言葉を否定するエリュクス。だが、やはり歯切れが悪い。 【では、一体どうしたの? 私達にも言えない事? ずっと溜息を付いてるわ。】 気の聖霊エアが、心配そうな顔をしてエリュクスの周りを回る。 【……そなたが悲しむと、母アースも悲しむぞ? 創世の娘よ。】 地の聖霊ジオが、大地から現れる。 聖霊達の優しい声にエリュクスの瞳から、涙が止めどなく溢れてくる。 聖霊達の言葉にしきりに首を横に振りながら。 【……ああ、そうか。我等はそなたの同胞ではない……。どれだけ我等が、そなたを愛していたとしても、支える事は出来ぬからな。】 空間の聖霊アルセリオンが、冷めたような口調で言う。他の聖霊達は、アルセリオンを&ruby(とが){咎};めるが、エリュクスが彼の言葉に反応する。 「……アルセリオン…どうして……?」 エリュクスの言葉に、アルセリオンが微笑む。その微笑みにエリュクスの涙が止まる。 【そなたが生まれた時から、例え短いと言えど、そなたの側にいたのだ。 そなたが欲しいものなど、手を取るように判る。 只、残念な事にそなたの望むものは、我等が叶えてはやれぬ事。何故、アースにそれを告げぬ?】 「……それは、私の私欲でしょう……? いけない事だって……。」 エリュクスの言葉にクスクス笑い出す時間の聖霊ラーディス。 【おやおや。何て弱気な事を。安心おし、我等が創世の娘よ。母アースは、そなた一人だけにはしまいよ。 宇宙神にしても、&ruby(ちぼしん){地母神};にしても、その同胞達にしても、そこまで過酷な事は言うまい。】 ラーディスのおっとりした言い方に、エリュクスの唇に微笑みが浮かぶ。 【うん、笑っている方が良い。そなたには無邪気な笑顔がよく似合う。我等の一番好きな顔だよ。】 火の聖霊エンラが、ウィンクしながら話しかける。 【確かにね。そなたが元気がないと、この星も元気がなくなる。ほーら、ご覧、そなたの側にある花も元気なかったでしょう? でも今は、そなたの微笑みと共に瑞々しくなっているのよ。私達だけではどうしようもないの。】 樹の聖霊ファグルが、エリュクスを元気付ける。 「……これは私の我が儘じゃないの? ……言っても良い事なのかしら……。」 エリュクスは、聖霊達の言葉にゆっくり顔を上げ彼等を見つめている。聖霊達の答えは皆同じだった。 【心配する前に、母アースに言ってごらん。我々だけでなく、同胞が欲しいと。 必ず母、アースは創世の娘の願いを叶えてくれるはずだよ。】 友達が欲しい、自分と同じ様な仲間が欲しい。それは小さな小さな願いであった。 どれだけ聖霊達やアースに愛されようと、心の何処かでずっと思っていた願い。 それが生まれて初めての寂しさを感じていた原因だったのだ。 エリュクスは、心を落ち着けるために大きく息を吸い込む。大地と空に向かって、エリュクスが祈りを捧げる。 「お父様、お母様。私は、一人ではとても淋しいんです。どうか……お願いです。 エリュクスに友達か……兄弟を与えて下さい。 私の我が儘をどうぞ聞き入れて下さい……。」 エリュクスの祈りに暫くの間、何の答えもなかったが、聖なる大地や海、空が美しい輝きを放ち出す。 「……お母様……?」 一瞬エリュクスが不安そうな顔をする。聖霊達も、廻りを見渡す。 #br 《……一人では、淋しくなってきましたか?》 アースの優しい声が、辺りに響き渡る。エリュクスは、緊張しながら頷く。 「……はい。勿論、不満があるわけではないの。聖霊達もお母様もとっても優しいのだけれど……私はずっと一人で居なければならないの? そう思うと……胸が苦しくなるの。」 エリュクスの答えに、まるで笑って居るかのように美しい光を放つ大地。 聖霊達が、笑みを浮かべてその光に身を委ねている。 《そうですか、やはり淋しくなりましたか。……エリュクス? もう暫く待てますか? きっと悪いようにはしません。》 アースがクスクス笑いながら返事をする。エリュクスの瞳が、嬉しそうに輝く。 「じゃぁ、必ずお友達が出来るのですか?」 問いに答える変わりに、星が美しい輝きを示す。それは、アースが肯定するときの仕種である。 エリュクスは、飛び上がって喜んだ。聖霊達は、そんな彼女を優しく抱きしめる。 #hr エリュクスの純粋な願いに答えたのは、彼女の父親や母親だけではなかった。 この新宇宙よりも遙かに遠いところまで届いたエリュクスの願い。 #br ―――小さな命の切ない願い……。 此処まで響いてこようとは……。 &ruby(むく){無垢};故のものか。 だが、このままでは危ういな……――― エリュクスの願いを聞いた遙かな者。それはゆっくりと、両手を広げ胸の所で交差させる。 まるでそれを合図にするかのように、眩い光がその胸から飛び出していく。 始め1つであったものが、幾つにも分かれる。そして何処かへと消えていった。 ―――セレス・ファーラの名を持つ者か……。 この世に偶然はない。全て必然なり。――― #br 遙かな者は、そう言うとゆっくりその場からかき消えた。 #br エリュクスが、友達を欲しいと言った後、聖なる光達の間では、ある問題が持ち上がっていた。 それは新しい星に降り立ったフィーズの事であった。互いに過去の穢けがれを新しい命に持ち込まないと誓ったのだが、彼はそれに反して、一人アースを守るという名目で身を変えた彼女に降り立ってしまったのだ。 このままでは、どうすることも出来ない。アースもまた、彼をはじき返すことなど、今の状態では出来ないのだ。 《どうだろう? 穢れなき命はあの娘だけで良いのではなかろうか?》 《……我等の&ruby(さんたん){惨憺};たる過ちを繰り返させないためにも、我もそう思う。》 《寂しがるかも知れぬが、この楽園を汚すわけにはいかぬ。》 男性達が口々に言う。カオスも難しい顔をしている。 不意にカオスは、女性達の方を向き直る。 《……そなた達はどう思う?》 カオスの問い掛けに女性達も静かに答える。 《私達は、あの娘の他に新たな命を育むべきだと思いますわ。あの娘を守ることの出来る者達を。》 《……そうですね。フィーズは昔から、アースに想いを寄せていました。いくら新たな命と言えど、あれだけアースに似ている創世の娘。フィーズが黙っているわけがありませんもの。》 《……今フィーズが眠っているのは、アースの超常力が、まだ彼に勝っているからに過ぎません。彼の能力を御存知でしょう? 気を溜め込むことが出来るのですよ。 それが、アースに勝った時、下手をするとなくしたはずの肉体をも復活させるかも知れません。そうなった時、私達や貴方達に彼を止める事が出来ますか?》 男性達は、思わず唇を噛む。 《し、しかし、あやつとて、聖なる光の一人。そこまで愚かな事をするとは到底思えないのだが……。》 女性の一人が大きな溜息を付いた。 《それは、私達の世界での事。この世界は、まだ生まれたてのものですわ。 善も悪も定まらぬ小さな世界。そんなところで、私達の世界観を通用させるおつもりですか?》 《……ぬぅ……。》 大きく唸る聖なる光達。相も変わらず、一人高見の見物をしている異端者イクセン。 (フフン、このままではこの宇宙も自滅を辿るのみか。……にしてもつまらぬ。 &ruby(みこおう){巫女王};の予言が違っていたのか?) #br 一瞬、異端者イクセンの耳に何かが聞こえた。ハッと我に返る異端者イクセン。 その何かは、此処に居る聖なる光達ではない。そして、新しい宇宙の命でもなかった。 思わずその気を追おうとしたが、瞬時にして消え去っていく。 #br (……今のは……まさか?) 聖なる光達は気付いていなかった。異端者イクセンの端正な顔色が変わった事を―――。 #br 《……我等が創世の娘エリュクスに強力な守り手を送り出そう。》 カオスが言葉を綴る。聖なる光達が、しーんと静まり返る。 《フィーズのアースを思う気持ちを信じたい……が、いつそれが狂気に走るかは計り知れぬ。 だが、もしもの時のために準備をしておく方が良いやも知れぬ。》 溜息と共にカオスが決断する。聖なる光達も頷いた。アースの姿が、蒼い星と重なる。 《アース……。これから再び新たな命を産めるか?》 カオスが、アースに尋ねる。アースは優しく微笑みながら答えた。 《わたくしの事ならご心配なさらないで……と言ったはずですわ。》 アースの返事にカオスが微笑む。 《……そなたが、そう答えるのは判っていたが……。》 《ですけれど、その子供達は、只エリュクスを守るだけの存在には出来ませんよ。 成長していく過程で、変わっていく自由を与えても宜しいでしょう?》 アースの返答に呆気にとられる聖なる光達。アースは美しく微笑んだ。 《この世界は、新たな命である子供達のもの。わたくし達は見守らなければいけないのですわ。そんな事すらお忘れになったのですか?》 《……全くそなたには適わぬ。だが、守りを預けても良かろう?》 《……わたくしが反対しても、守りをお与えになるくせに……。》 アースの言葉に失笑するカオス。 アースは優しい微笑みを浮かべると、エリュクスを生み出した時のように身体を微かに捩よじる。 小刻みに震える大地。喜びを讃えて居るかのような光が、大地と海、そして空に輝く。 突然の出来事にエリュクスが驚く。 #br 「お母様!? 一体どうなさったの!?」 慌てるエリュクスを宥める聖霊達。 【創世の娘よ。心配せずとも良い。これは、母アースの命の胎動。 そなたの願いを受けて、新たな命をこの世に生み出そうとしているのだ。】 【そう、この波動はそなたが生まれた時と同じ様なもの。案ずる事はない。】 聖霊達が笑いながら答える。 「そ、そうなの? お母様は大丈夫なの?」 エリュクスの質問に頷く聖霊達。聖霊達は、小刻みに震える大地が収まった頃、不意にエリュクスから離れる。 そして、同じ様な場所に向かっていく。 一人になることで不安を募らせるエリュクス。思わず彼女も、聖霊達の後を追いかけていく。 何故、彼等がいきなり自分の前から消えたのだろう? 母の命の胎動と言っていたが、それは一体何なんだろう? それらの疑問を持ちながら、エリュクスは聖霊達の後を追っていた。 #navi(origin) CENTER:[[Novel]]