CENTER:[[Novel]] CENTER:Legend of origin 〜創世神話〜 #hr #navi(origin) **第1部 誕生 <聖帝国ムー> [#wd3b4a47] **第1部 誕生 <聖帝国ムー 9> [#wd3b4a47] RIGHT:''&color(#ffdab9,#000){著者:真悠};'' RIGHT:&counter; ゆるゆると&ruby(きんせいび){金星日};が過ぎていく。穏かで心地の良い旋律が、絶える事無くこの星々に満ちていた。そう、これはお母様が私達に届けてくれている歌。 大きく暖かい光が、私達やこの星であるお母様を照らし出していた。あれは…お母様の同胞の慈しみの光。全てが、美しい音色となって私達を見守ってくれる。 お母様の歌声に合わせて、私の身体がフワリと動き出す。それは意識する事無く、自由に思いのままに手足が伸びて、大地を空を駆け回る。遥かな飛翔を終えて大地に足を着けると周りから拍手があがっていたわ。 「うわぁ…すごいわ、エリュクス。」 「うん、とても綺麗よ。」 「そうね、でも途中ではこうした方がもっと良くなると思うわ。」 そう、私達は今聖帝国ムーが出来上がった感謝のために、みんなが喜ぶような動きを考えているところだった。私の動きを見て、他の子達が直していってるの。 また、他の子達が出した動きをみんなでより良くしようと直したり、動きを入れたりしている。 「ベルーナが言っていたのは、どこを直せばいいかしら?」 「ここよ。ほら天に手をかざす時、ここをもっとゆっくりと優雅に片手だけじゃなく両手で、交互にやったらもっと良くなるでしょう?」 「あぁ、そうか。両手を天にかざした後に、今度は大地を包み込むように自分達の身体を抱きしめたら、もっと綺麗よ。」 お互いに身振り手振りで、色々な部分を直していき付け足していく、それが少しずつ形となっていく。みんなで何かを作り上げていくと言うのは、本当に楽しいことだわ。 「でも…こんな事を考え付くなんて…セイクリッドってば見かけによらず、すごいのね。」 クスクス笑いながらマグノリアが話し出したわ。それに付け加えて、ベルーナやレティシア、ファウンティンまでもが同調するし…。唐突に出たセイクリッドの名前を聞くなり、私の眉間に皺が寄ったのが判ったの。 「そうよねぇ。自分は全く興味ないって顔してるくせに、肝心なところで的を得た意見を言ってくれるんだもの。」 「そうそれよ。元々、セロルナがこの聖帝国ムーを作り上げると言った時、一番最初に反対したじゃない? あれだって私達みんなの事を考えていたんだものね。」 「うんうん、彼自身かーなりお馬鹿なことするし、冷めているなぁと思う事もあるけど、いざ何かをするという時には、他の人の何倍も動き回るし、そういう所すごいわよね。」 4人がクスクス笑いながら、話をしているのについていけない私。 「あ、あら。でもセイクリッドだけが動いているんじゃないわ。セロルナやロドリグスだって一生懸命動いてるじゃない。それこそ、セイクリッド以上に…。 大体、セイクリッドは、みんなの事おろそかにしすぎなのよ。口は悪いし、態度もふてぶてしいし、何考えてるんだか一番判らなくて困るじゃない。」 「そうかな? 私はそんなセイクリッドの方が好きよ。はっきりしてるもん。」 唐突な……本当に唐突なマグノリアの言葉に目が点になったかと思うと、次には私は叫んでいた。 「あんな奴のどこが良いって言うの!? マグノリアってば信じられない。」 マグノリアの言葉にベルーナまでもが同調する。 「あ、マグノリアのその気持ち判るわ。だってセイクリッドってとっても綺麗だもんね。」 「ベルーナ? 何を言っているの。セイクリッドの…どこが綺麗だって言うのよ。あんな訳の判らない失礼な奴の!」 「…エリュクスは、セイクリッドの&ruby(アストラル){精神体};を見た事がないの? 星の光に照らし出されるとね、セイクリッドのアストラルが白銀から青銀に変わって共鳴するのよ。 それはすごく透明で鮮やかで綺麗なの。」 「うんうん、月の光に照らし出されてもそうよぉ。鮮明で透明感があって、そのくせ華やかで。最もセロルナにもロドリグスにもそれは言えるけどね。あの3人ってすごく不思議で綺麗な存在よ。」 マグノリアとベルーナがうっとりしながらセイクリッドの事を誉めている。マグノリアは、星の光の中から生まれたし、ベルーナは、月の光から生まれたけれど、どうしてその2人があのセイクリッドの事を誉めるの? 「エリュクスは、セイクリッドの事嫌いなの? 私も結構好きだけどなぁ。」 マグノリアとベルーナの言葉に呆然となっている私の耳に、時間から生まれたレティシアが不思議そうな顔をしながら尋ねてくる。 「レ、レティシアまで……。」 絶句している私に更に追い討ちをかけるように水の泡から生まれたファウンティンが付け足していたわ。 「海そのものと水の泡からじゃ、ちょっと意味が違うかも知れないけれど、同じ水関係から生まれたからなぁ。……私もセイクリッドの事嫌いじゃないわよ。逆にいつも何でもはっきり言えて、うらやましいぐらいだもの。」 ちょっと待って、何でレティシアやファウンティンまでもがそんな事言うのよ。貴女達、セイクリッドの本性を知らないからよ。そりゃ、時々頼もしいなぁって思う事はあるけれど、それだけよ。 口を開けば憎たらしいことばかり言うし、態度は何時だってちゃらんぽらんだし、そんな奴のどこを好きだって言えるんだろう。 「ね…ねぇ今は、動きを考えているのにどうしてあいつの話になっちゃうのよ。」 「いいじゃない。どーせ彼等だって、私たちの事好き勝手言ってると思うし。話をしてたからって怒らないわよ。」 あっけらかんと言い放ってクスクス笑っているレティシアの言葉に目眩がしてきたの。そこにナザリウスとアステルが現れてくれたわ。話が違う方向に行って、ちょっとだけほっとしている私。 でもどうして、こんなに彼女達があいつの事を好きだって言った位で驚かなくちゃいけないのかしら。んー、なんだか自分でも良く判らないわ。 「えっと…邪魔しちゃうかな?」 ナザリウスとアステルは、申し訳なさそうに私達に声をかけてくる。邪魔なんてとんでもないわ。貴方達のおかげで、セイクリッドの話から反れる事が出来るんですもの。 「うふ、ちょっとしたお話していただけだから大丈夫よ。どうかしたの? 2人揃って。」 マグノリアが笑顔を浮かべて返事をすると、2人は安心したように話し始めたわ。 「いや、実はね…。時間を作りたいと言うか、星の運行の事を知りたいんだ。それで…みんなを探していたんだけど、ちょうどここに集まっていてくれたから話も早いね。」 私達の耳に聞きなれない言葉が飛び込んできたの。でも、どこかで聞いた事があるような言葉だわ。えーと…どこでだったかしら。つい最近だったような気がするわ。 「時間を作る事と星の運行って…一体どう言う繋がりがあるの?」 マグノリアとベルーナがきょとんとしながら聞き返す。うん、私も不思議に思うわ。何を作るためにそれらが必要になるのかしら? 時間を作るってどういう事なの? 私達5人が不思議そうな顔をしているのを見て、ナザリウスとアステルは、照れくさそうな顔をしながら、その説明をしてくれたわ。 「1金星日が、どれだけの時間をかけて次の金星日に変わるか知りたいんだ。そうだなぁ…例えば、聖霊ルーグが支配する時間と聖霊ルシリスが支配する時間の間隔が、どれだけの時が流れるかを知りたくてね。」 「え? そんな事がどうして必要なの?」 ナザリウスの言葉に私達5人は思わず首を傾げて、同時に聞いていたの。だって、不便はないわ。それを知ったからと言って何になるのかしら? アステルが、そんな私達を見ながら苦笑していたわ。 「君達が不思議に思うのは良く判るよ。えっとね、例えば、俺とナザリウスがある約束をしたとする。『&ruby(みょうきんせいじつ){明金星日};にルシリス・シャーラトで会おう』って言っても、それがいつなのか判らないだろう? ナザリウスは、ルーグの支配する時かと思うかもしれない、俺はルシリスの支配する時かと思うかも知れない。それぞれによって認識がずれちゃうと思うんだ。とてつもなく相手を待たせるかもしれない、それで不満に思うかもしれない。」 「…でも、それが『いついつどこで』と判れば、その約束だって守れるわけだろう? その『いつ』を知るために、時の流れが判れば便利じゃないかと思ったんだ。」 アステルやナザリウスの考えに私達はしばらく言葉が紡げなかったの。だって…そうでしょう? どうやったらそんな考え方になるのかしら。 大体そんな大雑把な約束事ってありえるのかしら? だって、普通は場所とだいたいの刻をきちんと約束するわよね。 「……こんなんじゃだめかな。俺達より君達の方が、聖霊や父上、母上達にずっと近しい存在だから聞いているんだけど……。」 ナザリウスが私達の返事を聞く前に、がっくりと&ruby(うなだ){項垂};れていたわ。きっと、私達5人とも同じように不思議そうな顔をしていたからだと思うのだけれど。 アステルも諦めたかのように小さく溜息を吐いていたの。そんな中でベルーナがニッコリと笑って答えていたわ。 「…ふぅん、ナザリウスとアステルの考えってとっても面白そうね。そうね、ここには幸いな事に天・地・水・時間から生まれた私達が揃っている事だし、教える事出来ると思うわ。」 ベルーナの意外な言葉に私達は、しばし呆然となってしまったわ。そして私達とは対照的にナザリウスとアステルが、その顔を輝かせていたの。 「ベルーナ? 星の運行を教えるってどうやって…。」 私の戸惑っている言葉にベルーナが、軽くウィンクして答えたわ。 「簡単な事じゃない。私達が時々やっている星読みだわ。」 「あ…何だそう言う事ね。」 「じゃぁ準備しなくちゃね。」 私達5人が一斉に動き出すと、不安そうな顔をして、私達の動きに合わせて首を左右に動かしているナザリウスとアステル。どうしてそんな顔しているのかしら。ナザリウスが不安になったのか声を出していたわ。 「あ、あのぉ、星読みって…一体どんな事? 俺達はただ、星の運行を教えて欲しいと思っただけで〜…。」 情けない声を出しているナザリウスを余所に私達は、星読みの準備をしていたの。私が超常力の結晶であるクリスタルを大きく作り出して、ファウンティンがその下に水鏡を作り出す。レティシアは、両手を胸のところに持って行き、時間を司る聖霊のラーディスを呼び出そうとしている。ベルーナとマグノリアは、それぞれ聖霊ルーグとルシリスを呼んでいた。 私達の行動にただ呆然と見ているアステルとナザリウス。そしてその場が闇と光に満ち、不思議な空間を作り上げると、呆然としていた2人は感嘆の声を上げていたわ。 ふふ、綺麗でしょう? これが私達が時々見ている星読みなのよ。 考えてみれば、これって余り他の人達の前でやった事ないわね。……それじゃぁ、この2人が不安に思ったのも無理ないか。 私達が作り上げた空間の中で、様々な星が煌いていた。お母様を初めとするこの星やお母様達の同胞である方々が、作り上げた美しい星々。ゆっくりと円を描くように光溢れる太陽を回っている様は、私達だって何度見ても溜息が出てしまうもの。 「うわ…。」 「…すごい。」 アステルもナザリウスもそれしか言えなかったの。うん、でもその気持ちとっても良く判るわ。ラーディスとルーグ、ルシリスはクスクス笑いながら、2人の驚いている様子を見ていたわ。 「私達のお母様であるこの星は、この太陽を中心に大きく円を描いているのよ。その周期は…詳しくは判らないけれど、580金星日ぐらいはかかると思うわ。」 「それで再び同じ場所に戻ってくるの。ほら…星の位置が、同じ時間に見ても金星日の夜ごとに少しずつ違うでしょう? それもお母様が、太陽と言う光を中心に円を描いているからなの。」 【正確に…言うなれば、アース神は584金星日で、アポロン神の外周を巡っている。】 ベルーナやマグノリアの言葉にボソッと突っ込みを入れるかのごとく、ラーディスがそう付け足したわ。その言い方が余りにもぶっきらぼうで、思わず笑い出してしまった私達。ラーディスの視線が、私達5人に注がれて口をつぐんでしまったの。 アステルとナザリウスは、ただただ、「はぁ」とか「へぇ」とかしか言えなかったみたい。 「俺達が生まれて…今までどのぐらいの時間が経っているんだろう。」 アステルが、唐突に私達に聞いていたけれど、答えられないわよ。本当にどのぐらいの時間が経っているのかしら? 数え切れないわ。 私達5人や彼等2人の疑問に答えてくれたのは、光の聖霊ルシリスだったわ。 【エリュクスが生まれてからと言う事ならば……既に60金星日は過ぎているわ。最もアース神がこの星に生まれ変わってからは…2980金星日ね。】 「え!?」 「はぁ?」 私達はルシリスの言葉に驚いてしまっていた。お母様がこの星に変わってから余り金星日が経っていないんだわ。 【まぁ、我等にはそんな時間は無用なのだがな。】 【時間と言う観念か。それを作り出して果たして良いものか悪いものか…。いずれ&ruby(ひと){光人};はその時間に追われる事になるというのに……。】 ルーグとラーディスがポツリと呟いていたけれど、当然アステルもナザリウスも聞いていなかったのよね。せっかく彼等が、助言してくれたって言うのに……。 「……母上が、太陽の周りを回っているとして…584金星日。それは常に同じ距離なんだろうか?」 アステルが、不意に言葉にしたの。どういう意味なのかしら? 【ほう? 面白い事に着眼するものだ。アース神の周期は確かに584金星日ではあるが、アース神はカオス神を慕って少しだけ傾いている。傾きながら自らも回転させ、アポロン神の周りを巡っている。】 ルーグの言葉にナザリウスが頷いていたわ。ん〜? ナザリウスは一体何が判ったのかしら。私達5人は思わず顔を見合わせてしまったの。ベルーナやマグノリア、レティシアとファウンティンも私と同じように不思議そうな顔をしていたわ。 「それって…ルシリスやルーグが支配する時間が、いつも同じじゃないって事だよね。」 【…同じ刻もある、またどちらかが長い刻もある。】 「それは、母上が太陽から離れてどのぐらいの刻?」 アステルは私達の超常力の投影である星読みを見つめながら、真剣な顔で、私達や聖霊であるルーグ、ルシリス、ラーディスに尋ねてきたわ。 そんな事言われても、困ってしまうわ。だって、お母様がお父様を慕って傾いているなんて初めて聞いたもの。他の4人も同じみたいだわ。きょとんとしているもの。 【そうねぇ…今後のためにもエリュクスやベルーナ、マグノリア、レティシア、ファウンティン。貴女達も覚えておいた方が良いかも知れないわ。見てちょうだい。アース神がここにいる時点では、私の支配する時間が長くなるの。逆に反対側のこの時点は、ルーグの支配する時間が長くなるのよ。そして、こことここね。私とルーグの支配している時間は同じよ。】 ルシリスが、判りやすいように私達が作った空間に光を射して教えてくれた。はぁ…そういう刻もあるのね。同じように光が射しているし、同じ金星日が続くものだとばかり思っていたわ。 「じゃあ…今はどちらの方向に向かっているの?」 私とベルーナ、マグノリアは同時に聞いていたの。聖霊達が微笑んでいたわ。 【今は…徐々にルーグの方が長くなりつつあるわ。つまり、この辺かしらね。】 ルシリスはそう言いながら、光を射してくれていた。え? と言うことはルシリスの支配する刻が一番長い刻は終わってしまったというわけなのね。 「それは、584金星日をちょうど4分割しているって事なんだろうか?」 ナザリウスの言葉にラーディスが苦笑していたの。どうしてかしら? それに何故私達もそれを覚えていなくてはいけないんだろう。 【後は…そなた達が考える事ではないか? 最初から決まったものはないだろうに。また、決めなければいけないものでもない。】 ラーディスの言葉にアステルとナザリウスは、ハッと顔を上げていたわ。その後にようやく笑顔を浮かべたの。ふわりと私達の作り出していた星読みの空間が閉じられると、2人は私達に向き直ってお礼を言いだしたわ。 「ありがとう、みんな。それに聖霊達。俺達に色々な事を教えてくれて、感謝しているよ。」 「うん、おかげで何とか出来そうだよ。本当にありがとう。」 ルーグ、ルシリス、ラーディスはアステルとナザリウスのお礼の言葉に微かに笑みを浮かべたかと思うとその姿をふっと消してしまったわ。うーん…いつもの事ながら、聖霊達って用が済めばすぐにその姿を消してしまうわね。 でも、私達にお礼を言われても、この2人が何を作ろうとしているのか未だに良く判らないのよね。あれで何か参考になったのかしら? 「んー…貴方達が何を目指したかったか良く判らないんだけど、手助け出来たって言うならそれで良いのかもしれないわね〜。」 「星読みが知りたければ、私達が揃っている時なら…気が向いたら教えてあげるわよ。」 あ、あのね、マグノリアはまだ良いとしてベルーナのその言葉って、すごく高飛車みたいに取れるわよ。……ほら、アステルもナザリウスも少し硬直してるじゃない。 マグノリアとベルーナの言葉にクスクスと笑っているファウンティン。そして、彼等にとどめ(?)を刺したのはレティシアだったわ。 「お礼なら…言葉よりも何か欲しいなぁ。」 アステルとナザリウスは、レティシアの言葉に顔を蒼くしていたわ。その気持ち…判るけれどね。 「な、何かって言われても…。」 「花とか木の実とか…?」 2人が焦っているのが良く判るわ。確かにいきなりそんな事言われても、考え付かないわよね。2人が真剣に悩んでいる姿を見て、レティシアが笑い出していたわ。元々、そんなものを要求する気はなかったみたいね。 「いやーねぇ、冗談に決まってるでしょう。そんなに本気で悩まないでよ。」 アステルがホッと胸をなでおろしていたわ。でもナザリウスはまだ悩んでいるみたいで、眉間に皺を寄せていたの。 「いや、でも…。」 ナザリウスは一生懸命考えていたみたい。何かを言いかけたんだけど、レティシアが最後まで言わせなかったの。 「もう冗談だって言うのに律儀ね。…それじゃあ約束して。貴方達2人が作ろうとしている何かが出来た時には、私達に一番に見せてくれるって。」 「え…? そんな事で良いのかい?」 「うん、貴方達が何を作ろうとしているのか、まだ私達には判らないのよね。ねぇ? 貴女達も知りたいわよね。」 レティシアの言葉に私達4人は頷いていたわ。アステルとナザリウスの顔が明るくなったの。そういう笑顔ってすごく良いわよね。2人は自分達の考えているものが出来上がったら、必ず私達に一番に見せるからと言って、ルシリス・シャーラトへと走って行ったわ。 私達もそんな2人に手を振っていた。 #hr 「さてと……。私達はどうしましょう。」 ファウンティンの言葉にお互いに顔を見合わせてついつい、肩を竦めてしまったの。 「続きの動きでも考えるにしても…ちょっと休憩しない?」 私の案に4人が頷いてくれたわ。私達は思い思いに、大地に寝そべって自然の音を聞いていたの。こうやっているとお母様の鼓動が聞こえてくるから、私は大好きなの。 お母様が私達のすぐ傍で、優しい眼差しで私達を見つめてくださっている、そんな感じがするんだもの。 雲が風に流れてゆっくりと空を泳いでいるわ。暖かな日差しが飽きる事無く照らし出してくれる。自然の優しい旋律が絶える事無く聞こえてくる。こんなのんびりとした過ごし方も好き。 ふと、ファウンティンが身体を起こして、瞳を閉じて何かに聞き入っているようなの。 「どうしたの? ファウンティン?」 「うん…何か聞こえない?」 「え? 何が?」 「微かになんだけど…。」 ファウンティンの言葉に私達4人は首を傾げながら、目を閉じて耳を澄ませてみたわ。確かに…自然の旋律に混じって何かが微かに聞こえてくる。これって…なんなのかしら? 自然の音じゃないんだけど、耳障りではないわ。 「……向こうから聞こえてくるみたいね。」 ベルーナがその何かが聞こえてくる方向を指差していたわ。私達は顔を見合ったの。 「…行ってみる?」 「そうねぇ。」 「行ってみましょ♪」 私達は動きを考えていたのもそっちのけで、新しい何かを見つけてわくわくしながら、何かが聞こえる方向へと向かっていったの。好奇心が強いというか、動きを考える事にちょっと疲れてしまったというか。こんな事考えていると知ったら、どこかの誰かなら馬鹿にするかもしれないけれどね。 私達は自然の旋律以外に聞こえてきたものを探していたの。どこから聞こえてきていたのか判らないけれど、それはとても優しく耳障りのいいものだったから。誰がどんな事をしているのか知りたかったのも事実ね。 「こっちから聞こえるわ。」 ファウンティンが再びその何かを聞きつけていた。うん、確かにこっちの方から聞こえたわ。そこは、ルーグ・ラトゼラールから少し離れた森の中。 私達は何かを求めて、その森の中に入っていく。森の樹々が一度途切れる庭のような場所からそれは聞こえてきていたの。辺りを見回してその何かを見つけた時、本当に驚いたわよ。 聞こえてきた何かに対してではなく、それを出していた人物の方にね。 「えっ!」 「あらぁ…ロドリグスとセイクリッドじゃない。」 「何してるんだろう?」 「あぁ…、この心地が良くて耳障りのいいもの、彼等が出していたのね。」 「そのようだけれど…あの2人の使っているもの何かしら。それに…ね、あれを聞いているとなんだか身体が動き出すような感じだわ。」 ロドリグスは糸を張ったものを弾いているし、セイクリッドは口に棒のようなものをつけている。そしてそれが私達が聞いていた何かの正体だったの。 こっそりと見ていたはずなのに、彼等2人の何かに合わせて、レティシアの言っていた通り、身体が動き出すような感覚に襲われるの。 トントトン…。ベルーナの爪先が彼等の出す何かにつられて、軽快に動き始めていたわ。マグノリアやファウンティン、レティシアも同様だったわ。そして、あろう事かこの私も。 彼等の出しているものが、何かは判らないけれど、じっとしてられないの。 一番に身体が動き始めたのは、不覚にも私…。そして私に続いて4人が、ナザリウスやアステルが来るまで考えていた動きをその場で5人で一緒にやりだしたの。 不思議な事に、ロドリグスとセイクリッドの出すものに、考えるより先に動きが次々と出てくるの。すごく気持ちが良かったの。 私達に気が付いた2人は、驚いた顔をして2人が出していたものを止めてしまったのよ。 んもう、せっかく私達が気持ちよく動いていたのに、どうして途中で止めちゃう訳? 「お…お前ら、何でここに?」 セイクリッドがポカーンと口を開けて私達を見つめていたし、ロドリグスはロドリグスで何が起こったか判らないという感じだったわ。 「ねぇ、それが音を出すもの?」 「あ、ああ…。まだ未完成だけど…。」 レティシアが瞳を輝かせて質問をすると、ロドリグスが呆然としながら答えてくれたけれど、セイクリッドの方は憮然とした顔でそっぽを向いていたわ。ほら、こんな態度のこんな奴のどこが良いって言うのよ。 でも他の4人は、セイクリッドの態度が気にならないのか平気で話を続けている。どうして気にしないでいられるのよ。 「もう一度聞かせて。それを聞いているとね、私達の身体が動き出すの。それに次々に動きのつながりが出てくるの。」 ベルーナの言葉にロドリグスは、何度か&ruby(まばた){瞬};きをして苦笑していたわ。ベルーナの言葉は確かに当たっているわよ。でもね、せっかく誉めているのにそっぽを向いているセイクリッドのこの態度はなぁに? 「エリュクス、何を怒っているの? 一番に貴女が動き出したのに。」 マグノリアの言葉にロドリグスが目を丸くしているし、セイクリッドすらも振り返って私の顔をまじまじと見つめているわ。こいつ…本当にいい根性しているわね。 「な、何よ。良いじゃない別に…。だ、だって心地よかったんだもの。それは貴女達だってそうでしょう? 一緒に動き出したんだもの。」 ちょっとだけふてくされている私に4人がクスクス笑い出す。ロドリグスは、気を取り直したのか唇の端に笑みを浮かべていたわ。 「心地良い…か、君達に言ってもらえるなら、それは最高の誉め言葉かもしれないな。こいつが提案した音を出すものを作るのに、かなりかかったけれどな。」 「……やかましい。だから漠然としたものだって最初に言っただろうが。」 「ふん、その割には、片っ端から『違う』と言っては、駄目出ししていたのはお前だろう。」 ロドリグスの話を聞く限りでは、一応セイクリッドも真面目に考えていたのね。ふぅん、確かにマグノリア達が言っていた通りよね。ちらりとセイクリッドの方を見つめると、セイクリッドってば知らん振りしてるし。 だから、そういう態度が気に入らないのよね。でも、さっきのあの音。とっても綺麗だったしもう一度聞きたいなぁ。 そう思っていたのは私だけじゃなかったみたい。私が言うより先にマグノリアやベルーナ、レティシア、ファウンティンが声を揃えて、2人にさっきのをまた聞かせて欲しいとせがんでいたの。 「ねぇ、もう一回さっきのを聞かせて。」 「え…い、いや。」 ロドリグスは、4人に言われてかなり驚いているみたいで、言葉がしどろもどろになっているわ。 「何でダメなの? それとも私達には聞かせたくないとでも言うの?」 私の変わりにベルーナが凄んでいたわ。セイクリッドが大袈裟とも思える溜息を吐いて、肩を竦めていたわ。 「…どうやら諦めた方がいいぜ、兄貴。こいつらに聞かれた事自体俺達の失敗だったんだから。」 「何ですって? なんて言い草なのよ、セイクリッド貴方は!」 セイクリッドの言葉にカチンと来た私は、思わず誰よりも先にセイクリッドに文句を言っていたわ。そんな私にセイクリッドが、嘲笑してくれる。こいつ…このままデラス・クリスタルで永久に封印でもしてやろうか。 私の考えが判ったかのように、セイクリッドが先を続けていたわ。 「おい、エリュクス。ここでデラス・クリスタルやローレライ・クリスタルを出してみろよ。そんな事したら、こいつらだってとばっちり喰らうんだぜ?」 そう言いながら、他の4人を指差すセイクリッド。レティシアもファウンティンもマグノリアも不安そうな顔をしていたわ。ただ一人、ベルーナだけはクスクス笑っていたの。 「だーめよ。エリュクス。それは、最終的なものであっていつでも出していたら、効果が薄くなるじゃない。いざと言う時の切り札にしなくちゃ。」 あら…確かにそうよね。ベルーナの言葉を聞くなり、ロドリグスとセイクリッドの顔から一瞬だけでも血の気が引いていたわ。 「…俺とセイクリッドを脅す気か。」 「とんでもないわぁ。純粋にお願いしているだけよ。だからエリュクスの事だって止めてあげたのよ。それとも…エリュクスの感情のままクリスタル出して欲しかったの?」 冷たく言い放ったロドリグスにあっけらかんと答えるベルーナ。その返答にロドリグスも大きな溜息を吐いたかと思うとガックリと肩を落とす。 ふむ…ベルーナって、なかなかロドリグスを操る術を知っているのね。 「……純粋なお願いねぇ……。」 ぼそっと呟いたセイクリッドにマグノリアがニッコリ微笑んだかと思うと、セイクリッドの傍に行くの。 「言葉はどうであれ、純粋な気持ちよ。だって、貴方達2人の出すものって、私達の気分をとっても良くするのよ。これって、お父様やお母様やその同胞の方達しか出来なかった事なのよ。すごいと思わない?」 はぁ、マグノリアは誉めまくるのね。マグノリアの言葉で、セイクリッドの頬が一瞬赤く染まる。……なんだかそんなセイクリッドに腹が立つのは…きっと気のせいね。 「ね? もう一度聞かせて?」 マグノリアとベルーナが2人同時に同じ事を言っていたわ。ロドリグスとセイクリッドは、お互いの顔を見合わせていたわ。 「……まぁ、良いか。どうせいつかは、みんなの前でやらなきゃいけないんだし…。」 ロドリグスが、ポーンと糸のようなものが付いたものを弾く。セイクリッドも諦めたのか小さな溜息を吐いていたわ。ふぅん…マグノリアとベルーナの手って、今後も使えそうねぇ。 ぼんやりそんな事を思っていた私の耳に、ロドリグスとセイクリッドの作り出した音が聞こえ始める。 うわぁ、やっぱり耳障りがいいわ。ロドリグスの糸を弾く音にセイクリッドの棒のようなものの音が絡み合ったかと思うと、私達の身体はやっぱり自由に動き出してしまっていたの。 例え、2人がどんなに悪態を付こうと、この音は本当に耳障りのいいものだわ。傍で聞いているとその良さがとってもよく判る。 大胆にして優雅。これがロドリグスの出す音。そして、意外なほどに繊細で一つ一つの音を大事にしている、これがセイクリッドの出す音なのね。 その2人の音に私の身体が、動きをピタリと止めて、喉の奥から何かが出ようとしていた。考える間もなく、その何かを出していた私。動いているレティシア達。音を出しているロドリグスとセイクリッド。それが合わさった時、私の中の何かが飛び出していた。 ''称えよ 世界の全てを 称えよ 幼き光人の世を'' ''久遠に変わる事無く 照らし出す光と闇を'' ''気は流れ 風は停滞する事無く たゆまなく恵を与えたもう大地'' ''水が穏かなる中で 草木は実る'' ''暖かな火を灯し 時間と共に創り出したる 敬虔なる空間に'' 身体を動かすのと同じぐらいに気持ちが良かったわ。うん本当に。今まで、こんなの出そうと思っても出なかったのに。これは何なのかしら。 私の声が止まると、みんなは呆然と私を見つめていたわ。え? 何? もしかして私とんでもない事しちゃったかしら。戸惑うばかりで、ただ視線が辛いだけだったわ。 #navi(origin) CENTER:[[Novel]]