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CENTER:Legend of origin 〜創世神話〜
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**第1部 誕生 <プロローグ 1> [#b923bb99]
**第1部 誕生 <プロローグ 1> [#b923bb99]

RIGHT:''&color(#ffdab9,#000){著者:真悠};''
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 ―――それは、突然始まった。暗闇の中を切り裂く閃光。断末魔の叫び。
――それは、魔なる魔と、聖なる&ruby(こうあん){光闇};との戦いであった。

 その激しい戦いのため、魔なる魔も、聖なる光闇も大勢の犠牲を出していた。
ようやく……その戦いが終わった後、そこに生きてきた者は、全てを失っていた。
自分達の世界、愛しい同胞達、さらには己等の肉体さえも―――。

 その激しい戦いは、辛くも聖なる光闇の勝利で終わったが、全てを失ってしまったのである。
それは、奇しくも、&ruby(いにしえ){古};の宇宙の崩壊と似たものがあった。悲しみにくれる人々。自分達の行った行為に涙し、後悔するが、全ては戻らない。
愚かな行為。そのためにかけがえのないものを失い、自分達の肉体や世界すら失った。

 生き残った大勢の聖なる光闇に属する者達は、ただ、ただ、自分達の犯した罪の恐ろしさに嘆き悲しんでいた。

 魔なる魔と戦って勝利しても、何も生み出さない。それどころか、全てを失ってしまったのだ。

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 どれだけ廻りを見渡しても、静寂と、深淵の闇が続く。そこに一人の女性の声が響く。

「世界がなければ、どうしてみんなで創ろうとしないのです? それぞれの力を合わせれば、世界を復活させる事ぐらい出来るはずです。
今までの世界を失ったからと言って、全てが失われた訳ではないでしょうに。」

 その女性の声に皆が振り返る。

「アース? 何を?」

 その女性は、名をアース・ティラと言う。聖なる光の皇族であり、今は後継者である。
美しく豊かな黒髪を持ち、瞳は光を放つが如くの蒼。その容姿は、美しく見る者全てが魅了される。
元々、魔なる魔と聖なる光の戦いの発端は、魔なる魔が、光の皇族である彼女と彼女の双子の妹を我が手に納めようと始まったのである。

 アースの双子の妹は、光の皇族の中でも最高級の剣の使い手であった。
いつも先陣を切って、魔なる魔と戦っていたが、ついに魔なる魔の王族に捕らわれ、殺されてしまったのだ。そして、共に戦場を駆け巡った、もう一つの光の皇族の後継者であったその友人もまた、散って逝ったのである。

 聖なる光闇……。
今でこそ、一つとなっているが、それまでに至るまでには、多くの光と闇の一族が、互いに共存し合わなければならず、様々な犠牲や苦労を築き上げてきた。 
このアース・ティラも聖なる光のために、真の闇を統べる王と婚姻を結んだのである。
強制的ではあったが、アースも自分の夫であるカオス・プラネッツをこよなく愛するようになったのだ。そして、その結びつきが、光と闇を統治し、聖なる光闇となり、魔なる魔を討ち果たす力となった。

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 聖なる光の象徴でもあったアースが、切々と訴える。

「皆の力を合わせて、多大な犠牲を払って、勝利が不可能と言われた魔なる魔を退けたんですよ。例え、全てが失われようとも、私達には、まだこの力が残されているでしょう?
嘆くだけでは、何の希望も見出せません。新たな世界を私達の手で育みましょう!」

 しかし、聖なる光闇に属する者達の大半が、難色を示した。

「馬鹿なことを言うな。新たな世界を育んだとて、誰がそれを治めるのだ?」
「その通り。今度は我等の中で、戦いが起きる。そうなっては、旧宇宙の二の舞だ。二度と再び戦いを起こす事は出来ぬ。」
「この状態で、力を使ってしまえば、我々は、生まれ変わることすら出来ぬではないか!」

 男達の言葉に悲しそうな顔をするアース。

「私達の中の誰かが、その世界を治めようとするから、また新たな戦いが生み出されて行くんです。私の言いたい事は、この中の誰かがその世界を治めるのではなく、新たな命を生み出そうと言っているのです。新しい世界、汚れのない新しい命を!
それこそが、私達の犯した最大の&ruby(ぼうとく){冒涜};への償いではないのですか?」

「償いとは言うが、我々が本当の意味で全てを失ってしまっては、何もならないではないか!」
「そうとも! 大体その世界の基盤を誰が創る? それすら、我等にとっては本当の意味で、命取りになるのだぞ!」

 男性達の言葉に、それまで黙っていた女性達が口を開いた。

「何と傲慢な事を仰るのか。貴方達は忘れてしまったのですか? その傲慢さが、魔なる魔を呼び、戦いへと導かれて行った事を!」
「戦いは何も生み出さないと言う事を己の身を&ruby(も){以};って知ったはずですわ。」
「……命? 既に我等には、肉体はないのですよ。それなのにそのような浅ましい事をまだ仰ると言うのか?」

 女性達の言葉も、男性達は一笑に付した。

「そなた達こそ何を言うのか。では聞くが、新しい世界の基盤……どうやって創るつもりなのだ?」
「出来ぬ事は、言うものではない。」
「出来ますわ。この身を大地に変えればいいだけの事!」

 アースがきっぱりと言い切る。驚愕する聖なる光達。

「アース……? 何を言い出すのだ! 例えそれが最良であっても、誰にやらせようと言うのだ。」

 カオスの言葉に、アースが優しく微笑む。

「この私が、基盤となりますわ。他の誰にもさせません。新しい命を育むのは、我等女性でなければ出来ない事。
殿方達にそれを強いる気はございません。全ての力を使いきっても、例えそれで命尽きる事になろうとも、私が、新たな命を育む基盤となりましょう。」

 アースの言葉には、さすがの聖なる光闇達も揃って反対した。

「何を言い出す!? この聖なる光の皇族であり、&ruby(おさ){長};になろうと言う者が、そんな物に身を変えようと言うのか!?」
「では、我等の苦しみは、何だったのだ!?」
「全ては、アース。貴女が長になるからと、我慢していたことではないか!」
「何を言い出すの!? 貴女が居なければ、誰が私達を導くというの!?」

 口々に反対されるが、アースは優しく微笑んだまま、その決意が固い事を皆に伝える。

「……そう、仰るとおり私は光の皇族であり、今ではその後継者です。そして、貴方達が御存知のように真の闇の王であった、カオスの妻でもあります。
私は、肉体があった時、愛するカオスの子供をこの身に宿しましたわ。
ですが……この戦いで、肉体を失い、愛しい子供を育んで上げることが出来ませんでした。だからこそ、今度こそ、新たな命を育んで上げたいのです。
そして……無垢な命だからこそ、このような悲惨な戦いなどしないと信じていますから。」

 アースがそこまで言うと、聖なる光達の耳に、笑い声が飛び込んできた。
そして、それと同時に、激しい光が深淵の闇の中に降り立つ。男性達は、女性を守ろうとしている。カオスも例外ではない。
アースの前に立ち、その激しい光を鋭い眼光で睨み付けている。
聖なる光達の前に眩い光を放ち、ゆっくりと人の形を取る者。

「何者だ!? 何故この空間に入れる!?」

 カオスの問いかけにも返答がない。アースはカオスに守られながら、懐かしい気を感じ取っていた。光は一人の男性になった。

「……フン、この宇宙も愚かな戦いで滅び去ったのか……。にしても、面白い事を言うものよ。己が、命を育むための基盤となるだと?」

 その男性は、アースを冷たく見つめている。

「貴様は……何者だ!? 名を名乗れ!」
「私は私だ。」

 カオスの再度の問いかけにも、お茶らけて居るのか、まともに答えようとしない男性。
その容姿は、長く大きくウェーブの掛かった紺色の髪、瞳は紫に輝く、怪しいまでの美しい男性であった。
只、カオス達と違うのは、背中に黒光りのする大きな翼を持っていた事。そして、頭には、金と銀に輝く角を持っていた。
角自体は、カオス達にとっても珍しくはない。特に闇の一族には、良く出るものである。
彼等にとって、角とは、全ての&ruby(ちから){超常力};を司るアンテナのようなもの。
ただし、両方の色が違う角を持つものはいない。

 男性達がただ者ではないと、それぞれの剣を抜き放つ。しかし、突如現れた男性は、それを見てクスクス笑っている。

「やめて下さい! この気は……サーファラ!? それにラグラだわ!!」

 カオスに守られていたアースが、彼を押しのけ叫んだ。アースの言葉に大きなざわめきが起こる。突如現れた男性は、アースを見るとニヤリと笑う。

「……貴様か? 先程自分が新しい命の基盤になると言い切った女は?」
「そうですわ。私は、光の皇族であるアース・ティラと申します。貴方はどちらからいらしたのですか? そして、何故私の懐かしく愛しい2人の気を放っているのですか?」

 アースの言葉に、クスクスと笑う男性。

「何故、答えぬ!?」

 カオスが威嚇するかの如く、怒鳴りつける。その男性は、廻りをグルリと見渡し、唇の端に笑みを浮かべながらゆっくりと答えだした。


「フン、それがこの宇宙の礼儀か? 人にものを尋ねるときは、もっと丁寧に言うべきではないのか?」
「何?」
「カオス! やめて下さい! 皆も剣をおしまいなさい!」

 アースの一喝がその空間に響く。男性達は皆、グッと息を呑んで、アースの言う事に従う。カオスも忌々しそうな顔で、剣をしまう。
アースは、そんな皆を見渡しながら、再び言葉を綴る。

「失礼いたしました。魔なる魔との戦いが終わった後故、皆気が立っていたのです。……一体貴方は?」

 アースの言葉に、大きく笑い出す男性。

「魔なる魔ねぇ。貴様等が遊んでいた奴等が、本当の魔なる魔だとでも思っていたのか? ……成る程、こんな甘ちゃんばかりでは、この宇宙がこんな風になったのも頷ける。」
「何だと!? 貴様、何たる無礼な!」

 聖なる光の一人が、顔を真っ赤にして怒り出す。

「聞こえないのですか!? 無礼を働いているのは此方なのですよ! お静まりなさい!」

 再びアースの一喝が飛ぶ。静まり返る聖なる光達。

「……フ、この宇宙が滅びなければ、貴様は良き指導者になったであろうな? だが……完全な滅びではないか……。
&ruby(アストラル){精神体};とは言え、これだけの同胞が揃っているのだからな。」
「……もしや貴方は、異端者イクセン…ですか?」

 アースの質問にその男性が、壮絶な笑みを浮かべる。

「……我等が&ruby(みこおう){巫女王};の言ったとおりだったな。幼き宇宙に輝ける一つの星……か。貴様の言う通り私は、異端者イクセンだ。」

 その男性の言葉に、驚愕を隠せない聖なる光達。まるで信じられない者を見るような目つきであった。
『異端者イクセン』……それは、正体不明の人物。だが、絶対に自分達の世界に干渉する事がなかったのだ。そんな人物が自分達の目の前に現れたのだから、驚愕は大きなものだった。

 その男性の言葉に、ゴクッと息を呑み、尚も言葉を続けるアース。

「そのような方が、何故此処に?」
「それは、貴様等が知るべき事ではない。本来なら、貴様等ごときに関わる筋合いではないのだが、二つの美しい光が、この私を此処に呼び込んだのだから。」
「まさか……それが、サーファラとラグラ……なのですか?」
「……フッ、そうだったかも知れんな。その者共の素性など知ったところで、この私には何の得もない。だが、ここに来た時、聞こえてきた言葉に我が耳を疑ったぞ。余りに面白いことを言うのでな。」

 クックと笑い出す男性。話を聞いていたカオスが、溜息を付きその男性に声を掛ける。

「異端者イクセンよ。何の目的で、此処に来たのだ?」

 カオスの言葉に、男性の紫の瞳が、怪しく輝く。

「目的? そんな物など無い。……いや、そうだな。貴様等が、魔なる魔に飲み込まれるのを見届けるため……とでも言えば、満足か?」
「……我等に害を成すつもりか?」
「フン、貴様等とこの私とでは、格が違いすぎる。魔なる魔に滅ぼされる前に、我が手で滅亡したいか?」

 その男性の言葉に、唇を噛んで黙り込むカオス。確かに格が違う。この男性には、自分達が束で掛かっても適かなわないだろう。
底知れない超常力の違いに判らないカオスではない。不意に男性から殺気が消えた。

「新たな宇宙を創ろうという、貴様等の考えが面白い。クックック……どうせ退屈なんだ。見届けるのも良いかも知れん。」
「それは……私達の世界……いいえ、新たな世界には手を出さないと言う事ですか?」

 アースの質問に、男性は笑い出す。

「手を加え、口を出しては、面白いショーは見られぬ。あらすじが判ってしまっては、つまらないからな。その代わり、期待に応えてくれよ。面白くなければ即座に、この世界を滅亡させても良いのだから。」
「そんな事はさせません。見届けると言った以上、手を出さないと言ったも同じではないでしょうか?」


 アースの怯えを見せない凛とした言葉に、またもや大笑いをする男性。その男性を快く思わない他の聖なる光達。

「フフ、暫くは退屈しないで済みそうだな。判った。手は出さない。ただし、貴様等が困ったことがあったとしても、この私に尋ねたりするな。
――ああ、それと、もしかしたら我がアルスワーナが、お前達の世界に現れたとしたら、その時だけは口を出させてもらう。手は出さないがな。それで良いか?」
「アルスワーナ? それはどなたなのですか?」
「貴様等には判らんさ。無駄な事は言わん。どうせ貴様等には理解できぬだろうからな。」

 余りの高飛車加減に呆気にとられている聖なる光達。

「……では、私達も貴方には口も手も出しません。その代わり、貴方も私達の新たな世界には、一切干渉しないで下さるんですね?
……最後にお聞きしますが……私達は貴方の事を異端者イクセンと呼んでいますが、それで宜しいのですか?」
「……口を出さぬと言う割には、うるさいところを付いてくる。」

 男性の言葉にアースがニッコリと微笑む。

「私は、最初に名を名乗りましたわ。普通、名乗るのが礼儀ではないでしょうか?
貴方は、私達の礼儀云々と申しておりましたが、貴方にとっては、名乗らないのが礼儀なのでしょうか?」

 アースの言葉に、クスクス笑う男性。

「フム、痛いところをつかれたようだな。……まるで―――のようだ。
……我はこの世界では異端だからな。幾千幾万の刻を流れてきた故、そのままで構わん。」
「それは、本名ではないだろうに!」

 男性の言葉に溜まらず何人かの聖なる光達が声を上げる。
異端者イクセンは、嘲るように冷たい視線を投げつける。その瞳に背筋に悪寒を走らす人々。

「貴様等に、本名を知られて縛られるのは、ご免&ruby(こうむ){被};る。これでも、かなり譲歩したつもりだぞ?」
「う……!」

 悔しそうな顔をしている一人の男性。カオスは、再び溜息を付き、その男性を制止する。

「確かに、本名を知ると言う事は、ある種の呪文になる。我等とて、きちんと名乗っていないのだ。それ以上望む方が、失礼に値するだろう。」

 アースの他の聖なる光達もカオスにそこまで言われては、黙り込むしかなかった。きっと他の者も薄々気が付いていたのだろう。
この異端者イクセンと名乗った人物には、自分達の超常力が通用しないだろうと言う事を―――。
自分達の宇宙があったときは、只そこに存在していた人物。自分達の世界に関わることも一切しなかった。

 そんな彼が、何故ここに現れたのかは、全くの不明だが、これ以上彼に&ruby(かかわ){拘};っているわけには行かないのだ。

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 再び、聖なる光達の話が始まった。異端者イクセンの出現のお陰で、中途半端になってしまった新しい世界の創造。その話題で、またもや一悶着になったのだ。
光の皇族であるアースを失う訳にはいかない。出来れば皆、彼女には思いとどまって欲しかったのだ。だが、アースは、頑固なまでにその意見を取り下げない。

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