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CENTER:''&color(#ffdab9){アグリア〜運命の女性達〜};''

CENTER:風の章 闇の皇女 エルミア・フィンリー

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#navi(fate)
**風の章 エルミア <光と闇> [#p8dd77e0]
**風の章 エルミア・フィンリー <光と闇> [#p8dd77e0]

RIGHT:''&color(#ffdab9,#000){著者:真悠};''
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 気が付いたときあたしは、光のシャーラトにいた。
どうしてなのか、よく判らない。
父様や母様と一緒に、セテの廃墟にいたはずなのに……。
一体、あたしの身に何が起きたんだろう?

 二人がセイルースに殺されたあと、あいつはあたしの命も狙ってきた。
なのに……この境遇は? ……判らない。
思い出そうとすると、真っ白い闇の中に引きずり込まれてしまう。

#br
 昨夜の嵐の中、エルミアは、完全に自分を取り戻した。
しかし何故自分が、こんな所にいるのか……全く判っていなかった。
どうやってきたのかさえも記憶にはない。
只。エルミアが、ここがシャーラトだと判ったのは、部屋の外から聞こえる何人もの話し声によってであった。

「一体、戦士長は、何を考えて居るんだ!? この美しいシャーラトに混血児を連れ込んだんだぜ!」
「何だって? 何を好き好んで、そんな事するんだ!?」
「奴等の考えている事は、知りたくもないね。まあ、この霊士宮に出入りさえしなければ 良いんじゃないのか?」
「……お前、知らないのか? その混血児だが、聖霊王が何をトチ狂ったんだか、戦士宮にいたあのゴミをこの誉れある霊士宮に引き取ったって話だぜ!」
「嘘だろう!? このシャーラトだけでなく、霊士宮さえも汚そうというのか!」
「そんな事、聖霊王に聞いて見なきゃ判らないさ。……けど、そのうち、始末しないとな。」
「おいおい……良いのか? 聖霊王が連れてきたんだろう?」
「フン! 何を言っている! このシャーラトの中で、闇の人間を死なせたからって、
誰が罪に問うんだ?」
「ハハハ、違いない。」

 笑いながら、エルミアのいる部屋の前から遠ざかっていく声。
それを聞いて、自分がいる場所を確認したのだが、同時に、誰も味方はいないのだと思い知らされることになる。

 唇をきつく噛みしめシャーラトに対して、憤りを感じるエルミア。

 これが、光と言われるシャーラトなのか?
ラトラーゼルを否定する余り、闇の人間と同じ様な思考を持っていることに気が付かないのか?

#br
 どうしてあたしは、こんな所に居なきゃいけないの?
あんな侮辱を言われてまで!
この有様の何処が光なのよ! 闇と何の変わりもないわ!
きっとこのシャーラトでは、誰もがあたしの事をあんな風に思って居るんだ。
早くここから出なきゃ。
こんな所で、死ぬわけに行かないもの。

#br
 大きな溜息を付きながら、窓から見える風景を眺めているエルミア。
広大な敷地の中に立っている、いくつかの大きな建物。
そして、それを取り囲むように長い壁が見える。
左側には重厚な大きな建物が建ち、右側には美しい城。
前方の方には、煌びやかな大きな建物があり、その隣には、神殿のようなものが存在する。

 ふと下を見ると、大きな美しい噴水があり、何十人という人間が、その噴水の側を行き交う姿が見られる。

「……これが、シャーラト……?」

 呆れたように感心したように、エルミアが呟いた。
そんな彼女の耳に不快な声が聞こえてくる。

「ちょっと! 混血児! とっとと部屋を出てくれない!?」

 不快な顔で、振り返ったエルミアの瞳には、この霊士宮の女官らしい女が一人映る。
嫌そうな顔をして、ドア越しに大声を上げていた。
エルミアは、気丈にもその女官を睨み付ける。

 ノックもしないでいきなり入ってくるのが、シャーラトの礼儀なの?
それにあたしは、混血児なんて名前じゃないわ!
エルミア・フィンリーよ!

 しかし、女官の顔は、エルミアを人間として認めていないような様子だった。
言うのも馬鹿馬鹿しくなり、エルミアも無言でその部屋を出る。

 一歩、部屋の外に足を踏み出したエルミアに、憎悪に満ちた視線が注がれる。
廻りを見ると、さっきの女官と同じように、エルミアを普通の人間として、見るものは誰もいない。
憎悪に満ちた冷たい視線が、エルミアに絡み付く。
中には、罵詈雑言を言う霊士もいた。

 しかしエルミアは、そんな視線に屈する事無く、廻りを見渡し子供と思えないきつい視線で、廻りの人間に睨み返した。
エルミアの態度に、思わず息を呑む霊士達。
廻りの人間が怯んだのを見計らうと、エルミアはその人垣を避け、下の階に向かっていく。

 外にいるわけでもないのに、エルミアの廻りには、風が渦巻いている。
信じられないものを見るような霊士達。

 広い霊士宮の中、風の聖霊達の導きによって、エルミアは苦もなく霊士宮の出口に辿り着いていた。
霊士宮を一歩出たエルミアに再び憎悪と殺意が絡み付く。
それは、噴水の前にいるシャーラトの人間達であった。

「何で、このシャーラトに、あんな闇の人間が居るんだ?」

 ざわめきが大きくなる。ああ、うっとおしい!
そんなに光と闇の混血が珍しいの!?
陰口をたたいたり、お粗末な殺意を見せたりしないで!
あたしは、見せ物なんかじゃないわ!

 ……母様。前に母様が教えてくれていたとおりの反応を示すのね。
このシャーラトの人間は……。母様が、シャーラトに戻るのをためらっていた理由……今ならよく判る。

 一人で考え事をしたいと思ってもシャーラトの人間は、それを許してくれないのか?
溜息を付きながらそう思っていたエルミアの耳に人ならぬ声が聞こえてくる。

【……我等の愛し児よ。シャーラト城の向かって右手に高い塔が見えるだろう?】
【……あそこなら、誰にも邪魔はされまい。あの塔に向かうが良い。】

 不意に聞こえてきた風の聖霊の声に頷き、彼等が示したところに向かうエルミア。
彼等の言う通り、その塔に向かって行くにつれシャーラトの人々の姿もまばらになっていく。

 散策しながら、感心しているエルミア。
霊士宮の中から覗いたシャーラトの広さにも驚いていたが、実際に歩いてみると、その広大さが身にしみる。
小さな森があり、小川が流れ、小高い丘もある。
全部を歩いて廻るには、2〜3日掛かるのではないかと思えるエルミア。

 風霊の導きで、高い塔の側にある、小高い丘に辿り着く。
廻りを見渡しても、誰もいない。
ほっと安心しながら、丘の麓に腰を下ろす。

 良かった……ここなら、誰にも邪魔されない。

 座ったエルミアの頬に心地よい風が吹き付けてくる。
エルミアは、ぼんやりと空を仰いでいた。色々なことが思い出される。
両親と共にラトラーゼルを脱出したのは、2年前。
エルミアが5歳の時。あれからたったの2年しか経っていないのに、なんて色々な事があったのだろう?

 ……父様も母様も、あたしにいろんな事、教えてくれたよね。
剣の使い方とか、戦い方とか……。
二人とも、ラトラーゼルにもシャーラトにも疑問を持っていたから……。
父様は、ラトラーゼルの在り方、魔なる闇と真の闇の違い、それにラトラーゼルの主要メンバーのデーター、魔導の使い方……父様が知る限りのラトラーゼルのことを…。

 母様は、シャーラトの体制や様々な矛盾、そしてシャーラトに伝わるちょっとした伝説……。光の人間の戦い方……。

#br
 つい……この間まで3人で笑い合っていたのに……。
父様も母様も、今は、あたしの側にいない。シャーラトに一人で居るのは……辛いよ。
父様も母様も居ないのは、淋しすぎる……。
あたしを守ってくれた二人が、もう居ないって……まだ信じられない。
ううん、信じたくないんだ。
信じたら……ひとりぼっちだって認めなきゃいけない……。
そんなのやだよぉ。

 エルミアは、膝を抱え、その頬に一筋二筋の涙を流す。
風霊達が心配して、エルミアに語りかける。

【……愛し児よ……泣くのはおよし……。】
【そなたが、哀しいと我々も哀しくなってしまう……。】

 まるで大切な者を慈しむかのように、代わる代わる風霊達がエルミアを抱きしめる。
エルミアは、そんな風霊達の言葉に涙を拭いて小さく頷く。

「……そうだね……あたしは、昨日誓ったんだっけ……。二人の敵をとるまでは、泣いたり諦めたりしないって……。」

 エルミアの言葉に、風霊達が微笑む。優しい表情をしていた風霊が、不意に険しい顔つきになり、激しい音を立てながら、エルミアの側から離れていく。

 風霊達の突然の行動に戸惑うエルミア。

「……どうしたの? 何か、気に障ることでも言った?」

 エルミアは、空を見上げ、風霊の姿を捜している。風霊達からの返事は何もない。
不安に思いながら、風霊達の姿を捜しているエルミアの視界の隅に、ピンク色のものがチラリと見える。

 ? 今のは何?

 エルミアは、ピンク色のものが見えたところを凝視している。
丘の上から、まるでエルミアを見下ろすかのように小さな顔がエルミアをジーッと見つめていた。それは、エルミアと同じくらいの年齢の少女。
その少女は、エルミアと視線が合うなり丘の上で身体を伏せる。
多分隠れて居るつもりなのだろう。
再び、その少女は恐る恐る顔を出す。

 何なの? あれは……?
……シャーラトの人間って、訳の判らない事するのね。
でも、ここも邪魔されちゃうのね。そして、嫌味の応酬なのかしら?

 溜息を付いて立ち上がろうとしたとき、その少女がエルミアに声をかけてきた。

「……あの……あの……わたしは、……食べても美味しくないよ?」

 その少女の言葉に一瞬何を言われたのか理解できなかったエルミア。

 ……え? 何? 誰が誰を食べるって……? あたしが……あの子……を?

 一瞬エルミアの身体が硬直するが、すぐに気を取り直し言葉を出す。

「な、何言ってるのよ! 何処を見てあたしが人間を食べるって言うのよ! 
冗談も休み休み言ってちょうだい!」

 何よ!! いくら闇の血を引いているからって、言うに事欠いて人間を食べるですって!? なんて失礼な!!
エルミアの頭に、カーッと血が上る。
その少女は、再びおずおずと言葉をかける。

「……本当に食べたりしない……?」
「いい加減にしてよ! それ以上言うと殴るわよ! ……貴女、あたしを馬鹿にしているの!? いくらラトラーゼルが憎いからって、侮辱もそこまで行けば立派なものよね!!」

 エルミアは、思わず両拳を振り上げた。
その少女は、エルミアの剣幕に恐れを成したのか再び顔を隠す。
が、またすぐにヒョッコリと顔を出す。

「……わたしの事食べないって言うなら……隣に座っても……良い?」
「…勝手にすればいいでしょ!」

 エルミアは、拳を震わせながら、少女の言葉に答える。
隣に来たら、一発殴ってやる!
そう思っていたエルミアだったが、再び気勢をそがれる。

 ピンク色にも見える、淡い紅の髪の少女が、エルミアの側にちょこんと座る。
そして、しげしげとエルミアの顔を見つめ再びとんでもない事を尋ねてくる。

「あれぇ? 角と牙と尻尾は?」

 その少女の言葉に、いよいよエルミアも怒りだして彼女の目の前で手を振り上げる。

「あたしは化け物かっ! あんた一体何様のつもりよ!!」

 エルミアの怒っている様子に、その少女は、頭を抱えながら叫んだ。

「だ……だってぇ光と闇の混血だって言うからそうだと思ってたんだもん。」

 半べそになりながら、エルミアに訴える。エルミアは大きな溜息を付いて答えた。

「いくら混血だからって、角や牙や尻尾がある訳ないでしょ! 何考えているのよ!」

 エルミアがそう言うと少女は、いきなりニコーッと笑いだし言葉を続けた。

「そっかぁ、でも貴女の髪って銀色に光って綺麗☆ 瞳も見た事ない色だねぇ、真っ暗な 冬空みたい。でもとっても綺麗☆
わたしマーリア・エリスって言うのぉ。仲良くしてね?」

 マーリアという少女は、そう言うと前置きもなくエルミアの膝の上に頭を乗せたかと思うと、寝息を立てだした。

 な……何なの!? 何でこういった展開になるのよー!

 エルミアは、マーリアの行動に呆れる余り振り上げた拳をゆっくり降ろす。
大きな溜息を付いて、再び空を見上げる。鳥の囀りが聞こえてくる。
只、不思議なことに風霊達がエルミアの側に近寄ろうとしない。
こんな事、今まで無かったことである。
只、完全に離れているのではなく遠くでエルミアを見守っている……そんな感じである。

 不思議に思っていたエルミアの耳に、何処か遠いところから、この少女の名前を呼んでいる声が聞こえる。
エルミアは、自分の膝の上で安らかに寝ているマーリアを揺り起こした。

「ねぇ、起きてよ。……誰かが、貴女を呼んでいるわ。ねえったら!」
「うにゃぁ……?」

 その少女が、寝惚け眼で起きあがるのと彼女を捜しに来ていた女性が、此処に来たのとほぼ同時であった。

 その女性は、エルミアを睨み付けるといきなり言いがかりを付けてきた。

「この混血児! マーリアに何をしたの!?」

 その女性は、ヒステリックに叫ぶとマーリアの腕を力一杯引っ張って自分の元に引き 寄せる。
エルミアは、怯んだ様子もなく冷ややかな瞳でその女性に言い放つ。

「何もしてないわ……って言っても、どうせ信じないでしょ? 貴女のお好きなように解釈すればいいわ。……大して立派な地位にいるわけでもない光の人間如きが、よくも好きな事、ほざけたもんよね。」

 エルミアは、草と土をほろいながら立ち上がる。

「光の人間共は、礼儀って言う言葉を知らないのかしら?」

 エルミアの言いぐさに、その女性はたじろぎながら反論する。

「た……たかが混血児に礼儀ですって!? ハッ! 笑わせるんじゃないよ! 
汚らわしい! さ、さあ! マーリア行くわよ! 
火霊士長が、あんたを捜して居るんだから! これ以上、手を煩わせないでちょうだい!」

 しかし、その女性の言葉に、マーリアという少女が反論する。

「い……いやぁ! この子と一緒にいるの! 離して!」

 じたばたと反抗しているマーリアを睨み付ける女性。

「聞き分けなさいな! どうしたって言うのよ!
いっつも私達の言う事を聞いていたでしょう! 
あんたが、こんな混血児と一緒にいるなんて知れたら私が、叱られるのよ! 良いから、いらっしゃい!」

 その女性は、そう言うと、マーリアを引きずるように連れていく。
マーリアという少女は、泣き叫びながら霊士宮の方へと連れて行かれる。

 エルミアは、そんなマーリアの姿を見ながら、
不可解な気持ちになっていた。

#br
 ……いくら、あたしと一緒にいたからって、あんな扱いをされたんじゃ、嫌がって泣くのは当たり前じゃない。
あの子は、このシャーラト人間でしょうに……。
同じ光の人間だというのに、あの子への態度は何なの?
何度も何度も泣きながらエルミアの方を振り返る少女。
淡い紅の髪、紫の瞳をした少女は、霊士宮の方へと連れて行かれていく。

 その少女を見送りながら、塔の前に佇んでいるエルミア。
マーリアが居なくなったのを見計らったように風霊達がエルミアの側に降りてくる。
エルミアは、何処へ戻る当てもなく再び、その場所に座る。

 この塔って、何のための塔なのかしら?
見張りをしているにしては、余りに奥まったところにある。
それに……塔の上には、誰もシャーラトの人間がいない。

 自分の目の前にそびえ立っている塔を見つめながらぼんやりと考えているエルミア。
やがてどれぐらいの時間が経ったのか夕焼けが、シャーラトの空をバラ色に染め、太陽が、完全に沈み天空に月が出る頃、エルミアの前にそびえ立っている塔から、一人の少女が出てきた。

 真っ白なローブに身を包み、目の前にいるエルミアの顔をじっと見つめている。
エルミアも思わず、その少女を見つめていた。
エルミアの記憶にはないが、一昨日の晩意識のないエルミアを見つめていた少女であ る。

 不思議な雰囲気を放つ少女に、エルミアは目が離せなかった。
少女は、エルミアの元に歩み寄ってくるとエルミアに優しく穏やかな微笑みを向ける。

「……貴女……誰……?」

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