Novel
Legend of origin 〜創世神話〜


第1部 誕生 <聖帝国ムー>

著者:真悠
718

 ルシリス・シャーラトに入ったは良いけれど、視線が突き刺さるなぁ。
覚悟はしていたのよ?
何せ彼等にとっては極悪人というレッテルを貼られているロドリグスやセイクリッドと一緒だから……。

 みんな不安の入り交じっている顔をしている。
確かに……私もこの2人の思いを知らないままでいたら、みんなと同じ態度を示したかも知れないわね。

 視線が突き刺さる中でも、この2人の態度は変わらない。
平然としていて、余裕のある態度。バカなのか大物なのか……。
きっと両方ね。
ああ……お願いだから何事もありませんように。

 私達3人を案内してくれるのは、ナザリウス・ル・ロクリーヌ・デラヌス。
セロルナと同じように空から生まれたの。
そうか……彼がセロルナの片腕となっているのね。うん、確かな人材ね。
セロルナも上手にやっているのね。良かった……安心したわ。

 ナザリウスが私達を大広間に案内する。
大広間では、既にたくさんの人々が私達を待ち受けていた。そしてセロルナも。
私達の顔を見るなり、セロルナの顔が輝く。

「ロドリグス! セイクリッド! それにエリュクスまで!」

 セロルナは、大きく腕を広げて私達に駆け寄ってくる。ロドリグスとセイクリッドもそれに答えた。
え? え〜!? ど、どう言う事なのぉ?
目を白黒させている私の前で、3人がお互いに抱き合って、笑っているわ。
そして大広間にいるみんなもその様子に驚いている。

「久しぶりだな。セロルナ。」
「へ……え。少し見ない間にずいぶん立派になったな。」
「そう言うお前達こそ。偉そうな態度が堂に入っているよ。」

 ……もしかして彼等って、互いに連絡でも取り合っていたのかしら?
でもお願いだから、私達にも判るように説明してちょうだい。ナザリウスが、セロルナに大きく咳払いをする。

「セロルナ……もといラ・ムー! 皆が驚いているんですが。」

 彼の言葉に3人が苦笑してスッと離れる。だから! 何なのこれは?
ナザリウスの言葉がなければ、そのまま3人で語り明かしていたかも知れないわ。
ロドリグスが、軽くセロルナに礼をする。

「ルシリス・シャーラトの指導者たるラ・ムーよ。この間は失礼なことをした。我等の行いは聖帝国ムーを(うれ)いての事。ひいては、我等について来た者に(とが)はない。もしどうあっても許されぬとあらば、ルーグ・ラトゼラールの指導者たる我等にその咎を与えるように。
だが、ここで宣言しておきたいのだが……我等がルーグ・ラトゼラールを建てたのは他意合ってのことではない。
我等はルシリス・シャーラトと事を構える気は全くない。それだけは理解していただきたいのだが……。」

 ロドリグスの偉そうな口上に私はびっくりしてしまったわ。
セロルナは、ニッコリと微笑んでそれに応えたの。

「ルーグ・ラトゼラールの指導者たる、ルーグ・アラノよ。……この間のことは互いに水を流そうではないか。
元々、我等がまとまるためにそなた達が、悪者に徹したこと。本来なら、我等はそなた達に感謝しなければならないのだから……。
聖なる光も闇も我等にとっては必要不可欠なもの……。我々がいがみ合う何者もない。」

 ……セロルナの言葉に私は開いた口がふさがらなかった。セロルナって、こんな言い方してたっけ?
な、何だかセロルナもロドリグスもすごく偉そうじゃない? セイクリッドの肩が揺れている。
……と思ったら、笑いを堪えているのぉ? 周りを見渡すと、大広間にいるほとんどの人達が、私と同じ様な反応をしている。

 ……大した策略家よね……この2人……いいえこの3人は。確かに効果的だとは思うわ。聖帝国ムーに反旗(はんき)(?)を翻した形になったロドリグスとセイクリッド。
でもセロルナの口から、あんな風に言われれば、ルーグ・ラトゼラールの設立を認めざるを得ないもの。危険な芽ではなく、友好を交わした仲間として……。

 実際に彼等はこの聖帝国ムーを手中に収めるつもりはないんだもの。
じゃぁ……心配してここまで付いてきた私はなんだったの?
何だか空しいような気がするのは気のせいかしら?

 ふと、3人の視線が私に向けられる。何? 何だか嫌な予感がするんだけど……。
セイクリッドがニヤリと笑う。
「さて、この中には我等の友好を疑う者もいる。まあ、当然の成り行きだが……。
そこで俺達が、本気でルシリス・シャーラトひいては、聖帝国ムーを敵にするつもりが無いという証明をしたい。」

 ドキン!
 嫌な予感が坂を転がるように膨れ上がる。ちょ、ちょっと……何を言うつもりなの?

「ここにいるエリュクスは、みんなも承知の通り争いを極端に嫌う。その彼女が、ルーグ・ラトゼラールを影から支えてくれている。
統治者ではないが、一番最初にこの世に生まれた彼女こそ、聖帝国ムー全てを支えるたった1人の聖なる存在だ!
もちろん俺達とて、彼女に脅迫しているわけじゃない!
俺達が危険な事をしないように、あえてルーグ・ラトゼラールにその身をおいてくれているんだ。それなのに俺達が危険な思想を持てる訳もないだろう!」

 セイクリッドの言葉にルシリス・シャーラトが人の声で、大きく揺れたわ。
歓喜に満ちる声が、ルシリス・シャーラトを満たす。
ちょ、ちょっと!! 私の意志はどうなるの!!
何が『聖帝国ムー全てを支えるたった1人の聖なる存在』なのよ!!
誰がそんな事受けるって言ったのよぉ!!

 ……私の意志は無視され、みんな喜びに満ちている。
は…(はか)られたっ!!
セイクリッド達を睨み付けると、この3人ってば涼しい顔をしている!!
なんて事なのぉ!?
もう大声で叫びたかったわよ! そんな事、約束してないって……。
でも……言えなくなってしまったの!

 みんなは口々に「これで安心だ!」なんて言い出すんだもの!
せめて誰か反対してよ! 私がそんな座に着くのを! 逆に危ないって言ってよぉ!
私にそんな重荷勤まる訳無いでしょう!

 けれど誰も彼も私が付いているならって賛成までする! もう……もうどうしたらいいか判らないわ。
なんて悪知恵が働くの!? このセイクリッドって!!

 私の思っていることが判ったかのように、セイクリッドが不敵に笑っている。
……こいつはぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
セイクリッド達3人をギリギリと睨み付けていると、ナザリウスが私に何か一言、言ってくれるようにとコソッと告げてくる。

 う〜……どうしよう?

「あ…の私は……争いごとは嫌いだわ……。だから……みんなで仲良くやっていきたいの。
それは私だけじゃなく、お父様やお母様、そしてみんなも同じだと思うの。
せっかく力を合わせて、作り上げた“聖帝国ムー”をみんなでより良くして行きましょう?
そのために私も微力ながら協力するから……。お互いに協力していきましょうね?」

 私の言葉にますます喜びの声を上げるみんな。
はぁ……。ホントにこれからどうなるのかしら?
でも……! 私をそんなものに仕立て上げた3人には、しっかりとお礼をしなくちゃ!

 まさかこんな所で、彼等3人の苦手とするクリスタルを出す訳には行かないから、可愛くお礼をしなくちゃ……ね。
スイッとセイクリッド、ロドリグス、セロルナの3人に近寄り、爪を立てて3人の背中を思いっきり(つね)ってやったわ。

「ゲッ!?」
「イギッ!!」
「ガッ!?」

 小さく叫び、涙目で私を睨み付ける3人。フン! これぐらい当然でしょう!
私に何の説明もなく、勝手にそう言うことにしてくれたんだもの。
私はニッコリと極上の微笑みを浮かべた。

「セロルナ、ロドリグス、セイクリッド? これからよろしくね?」

 私の言葉に微かに怒りで肩を震わせている3人。ふふん、この場で何か出来るものならやってみたら?
みーんなの目があるんだからね!

 セロルナとロドリグスが、一瞬悔しそうな顔をしながら、私に握手を求めてきた。
そして少し遅れてセイクリッドも。

「……こちらこそ……お手柔らかに頼む……ぞ!」

 ……ふぅん、さすがに上に立つ者としての自覚はあるらしいわねぇ。人前では大騒ぎはしないか……。そう言うところは感心ね。

 私達の握手で、沸きに沸くルシリス・シャーラト。みんなの目には、私達が仲良く握手しているように見えるんだろうなぁ……。
まあ、お互いに極上の笑顔(?)を浮かべているし……。
只、セロルナの側にいるナザリウスだけがクスクス笑っていただけだったわ。
ルシリス・シャーラトでの歓迎が終わり、私達はルーグ・ラトゼラールに帰る事になったわ。

 ルシリス・シャーラトに来てくれたお礼として、明金星日(みょうきんせいじつ)にでもセロルナが、ルーグ・ラトゼラールに来てくれるという事で話はまとまったの。
もちろん、私達はにこやかな顔でルシリス・シャーラトを出たわ。

 ルシリス・シャーラトを出た後は―――想像付くでしょう?

「……ちょっと……あれはどう言う事なの!? なんで勝手にあんな事言うのよ!!」
「まあ、確かに勝手に言ったことだけど、案外みんなも受け入れていたし一番余計な争いにならずに済んだんじゃないか?」
「そう言う問題じゃないでしょう! ロドリグス! 貴方達が統治者なのよ!!」
「ほー? 俺は最初に言ったはずだぞ?お前も初世(しょせい)に生まれた者として、上に立つ覚悟は出来ているのかって。もう忘れちまったのか?」
「セイクリッド!!」

 私が張り上げた声にも動じることなく、飄々(ひょうひょう)としている2人。
ふと、周りを見渡すと、優しい風が吹き抜け自然がキラキラと輝いている。
まるでお母様が笑っているかのごとく……。すごく綺麗……。
何だか1人怒っている自分が、馬鹿らしくさえ思える。

「俺達が、あいつ等とやり合うつもりはないという事は伝わったのは、エリュクスが居なければ無理だったんだぜ?
出来る限り、エリュクスを煩わせないようにする。俺達みんなにとって、エリュクスは、一番信頼が置ける存在なんだ。なぁに、これ以上の無理難題は言わないよ。」

 ロドリグスがあっさりと言い除ける。

「……ねぇ、聞いて良い? 貴方達、あの後からセロルナと連絡を取り合ってたの?」

 私の質問に、2人が顔を見合わせる。

「そう言う訳じゃねぇよ。何だってそんな事聞くんだ?」
「だって、貴方達3人の息があまりにもあってたもの……。」

 私の言葉にクスクス笑い出すロドリグスとセイクリッド。

「……多分……俺達3人はほぼ同じ刻に生まれたからだろう? だからこそあのまま仲違いするのは嫌だったんだ。
セロルナも同じ事を思っていたみたいだし……。」

 ああ、やっぱり彼等が一番この聖帝国ムーの事を心配していたのね。
ふぅ……こんな風に思っているなら、最初に一言言っておけば良かったのに。
そうすれば、あんな誤解を受けなくても済んだのにね。
……考えてみれば、この3人って損な性格しているのかも知れないなぁ。
だからこそ、あんな大胆な作戦も立てられたんだろうけれど……。

 うーん……やっぱり私1人の手には余る3人よね。考えが底知れなくて困るわ。
まあ……だからこそ頼もしい様な気もするけれど……。そう言えば……お母様が言ってらしてたわね。
私と運命を共にする存在があるって。その存在が現れるのはいつなのかしら?
彼等3人のような繋がりを持てるのかしら?

 楽しみなんだけれど、何だか胸も痛くなってしまうの。どうしてだか判らないけれど……。

 ふいに黙り込んだ私の顔を覗き込んでいるロドリグスとセイクリッド。

「どうしたんだ? エリュクス……いきなり黙り込んで?」
「え? ううん、なんでもないわ。まあ、とにかくやるしかないのよね。」
「……何をいきなり言い出すのかと思ったら……。ホントーに判んねー女だな。」

 セイクリッドの失礼な言葉に私の手は強かに彼の頭を殴りつけていた。

「な、何しやがるっ!!」
「やかましいわねぇ! 貴方が一言多いからいけないんでしょう!
むやみやたらに女性に対して変な事言わないでちょうだい!」
「女性って……どこをどう取ったらお前が女性になるんだよ! 女性ってのは、母上のような女の事を指すんだろうが! 誰がお前なんかに女を感じるかよ!」

 前言撤回! こんな阿呆のどこが頼もしいのよ!
只のたわけ者だわ!!
私の手にはデラス・クリスタルで出来たハンマーが現れ、それでセイクリッドを殴りつけたの。
地面にまで、めり込んだセイクリッド。顔面蒼白になって、その様子を見ているロドリグス。

 私はその2人を放って、1人でさっさとルーグ・ラトゼラールに戻ったの。
全く! 先が思いやられるわ! まあ……きっとあの2人もそう思っていたんでしょうねぇ。

 そんなこんなで、ようやく私達の聖帝国ムーが、歩き始めたの。みんなの大きな希望と共に……。


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