Novel
Legend of origin 〜創世神話〜


第1部 誕生 <聖帝国ムー>

著者:真悠
756

 しばらくの沈黙の後、ロドリグスがゆっくりと口を開いたわ。

「聖なる闇……ねぇ。まあ、確かに面白そうではあるな。なぁ? セイクリッド?」
「……やるんなら、兄貴1人でやれよ。俺は…やりたくないからな。」

 ロドリグスは、受け入れ体制なのに何故セイクリッドは、受け入れてくれないの?
そんなに私の提案がいやなの? 私はどうしたらいいのかしら……お母様!

「お前……何か考えていることでもあるのか?」

 ロドリグスが静かにセイクリッドに尋ねる。私も聞きたいわ。一体何を考えているの?

「……考えって訳じゃねぇよ。……強いて言うなら俺の勘だよ。多分、トップに付くだけじゃ済まない……。それに……。」
「それに?」
「ああ、何でもねーよ。とにかく堅苦しい事は兄貴に任せる。……そのための兄貴だろ?
それにこいつ等だって兄貴ならなんとかまとめるだろうよ。」

 『トップに付くだけじゃ済まない』

 セイクリッドの言葉にドキッとなった私。彼は……私のように未来を読めるんだろうか? だからあんな事言うの?
でも……ここで怯んじゃいけないわ! なんとしてでも、セイクリッドにも指導者になってもらわなくちゃいけないんだから!

「セイクリッド……どうしてもダメなの? どう頼んでも……?」

 悲しくもないのに涙がボロボロとこぼれ落ちてきた。……あら、こんな事もできるのね……?
私の涙に他のみんなは一斉にセイクリッドを見る。そうよ、このか弱く可憐な私が、ここまでするのよ!
これでも断ると言うなら、貴方は男じゃぁないわ!!
潤んだ瞳で、セイクリッドの側に行ったの。

 思わず後ずさりしているセイクリッド。顔を赤くしたり青くしたり……。
ふ〜ん♪ やっぱり面白いかも。あ……彼の鼓動が聞こえる。

「ちょ……ちょっと待てよ! お…俺は……!」

 私の身体がぴったりとセイクリッドの身体に密着する。顔を見上げて、またもやウルウル攻撃! 彼の鼓動がますます早くなる。顔も真っ赤だわ。
……やっぱり純情なのかなぁ?

「なつくな!! ったく……汚い手を使いやがって! ……判ったよ! 兄貴のサポートをする! それなら良いだろう!?」

 セイクリッドはそう言うと、私の身体を引き離したの。200人の仲間が、2人の言葉に喜んでいる。
ちが〜う! 私が言いたいのは、サポートなんかじゃなくて貴方にも指導者の1人になって欲しいって言う事よ!
不満そうな顔をしている私を指差しながら、セイクリッドが言い切る。

「これでも譲歩したつもりだぜ? ……それに俺達だけに嫌な役を押しつけるってのは、頂けないよな? もちろん、お前だって一番最初に生まれた者として、上に立つ者として心得ているんだよなぁ?」
「な、なんでそうなるの!?」
「……俺達だってやりたくもない事を押しつけられるんだ。お前だけのほほ〜んと見物するなんて事は言わねぇよな?
……確かこの美しい大地を汚したくないって言ってたよなぁ?」

 グッ! こ、こいつ人の足下を見てそう言うのぉ? なんて奴なの!
私までその役目を回す気なの? うーん……確かに私はこの大地を汚したくないわ。
お母様を闇に染めたくない。
何も私じゃなくたって、彼等を押さえられる人はいるんじゃないかしら?

 ふ……と、喜んでいるみんなの顔を見渡してみた。
ん〜〜〜〜〜〜〜!
……いないかも知れない……。
(いさ)めることの出来る人は、たくさんいるけれど彼等の手綱を引ける人は……。
はぁぁぁぁ……やっぱり私もやらなくちゃいけないの?
仕方ない……のかも知れないわぁ……。

 みんなの未来がおぼろげに見えても、自分のはままならないのよね。私が介入することが果たして良いことなのか、悪いことなのか。

「……どうする? お前が断るなら俺だって断るぜ。」

 私の気持ちを見透かしているかのようにセイクリッドが吐き捨てる。
あーもう! 判ったわよ!
確かにセロルナを初め、ロドリグスやセイクリッドは、この聖帝国ムーに必要な人物だわ!
セイクリッドに言われたってのが、しゃくに障るけれど。四の五の言ってる場合じゃないわよね。

「判ったわ。その代わり! 貴方達の手綱、しっかり締めさせて貰いますからね!」

 私の言葉にニヤリと不敵に笑うロドリグスとセイクリッド。
……もしかして私って…こいつ等の罠にはまった……のかしら?
悔しい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
全く覚えてらっしゃいよ!
いつかこのお返しはさせて貰うんだから!
私の事などお構いなしにロドリグスとセイクリッドが200人の仲間達に語りかける。

「さて、聖なる闇の存在が決まったところで、まず俺達が一番最初にやらなければいけない事がある。……判るな?」

 一番最初にやらなければいけない事? 何?
でも、他の200人はそれが判ったかのように声を上げている。
あっと言う間にみんなあちこちに消えていったわ。

 あ、あら? ロドリグスとセイクリッドもいない。どこ行っちゃったのかしらみんな……。

 ぼーぜんとしている私の周りで次々に運ばれる石や岩、それに切り倒した木々。
あ! そうか! みんなの拠点になるように住むところを創るのね?
じゃぁ……私は、みんなが疲れて戻ってきても良いように食べ物を調達しなくちゃ。

「ファグル……? 協力してくれる? きっと彼等は疲れると思うから、滋養のある食べ物が欲しいの。」

 私の問いかけに聖霊ファグルがクスクス笑う。

【おやすいご用よエリュクス。疲れも吹き飛ぶようなおいしい食べ物を用意しますよ。
カザマ、貴方も手伝ってちょうだい。】
【了解した。エリュクス、そこをおよけ。我が風で吹き飛ばされては大変だからね。】
【では、我は水の中に住む者達の了解を得よう。ジオ水底をつついてくれるか?】
【……エリュクスが望むのであるならば、承知。】

 聖霊達の協力もあって、あっと言う間にたくさんの食べ物が、私の目の前に現れる。

「うわぁ……すごい数になったわね。でも、ありがとう聖霊達♪」

 聖霊達が、私の言葉に優しく微笑んでくれた。やがて、みんなが戻ってきて住むところを作り出す。
そしてその指揮を執り、一番に働いているのが、以外にもロドリグスとセイクリッド。
指導者とそのサポートと言うにも関わらず、みんなと一緒になって動き回る2人。

 ふーん……やっぱり彼等が上に立つことになって正解かも知れないわ。
セロルナもそうだったけれど、上から命令するだけじゃなくてみんなと共にある。
でも……傍目から見てたら遊んでいるのか真面目にやっているのか、判らない時もあるなぁ。
でも……良いことだわ。
うふ♪ 私も嬉しくなっちゃう。ずっとずっと、この穏やかな刻が続くと良いな。
ううん、ロドリグスやセイクリッドのやったことを無駄にしないためにも続かせなくちゃいけないのよ。


 そしてあの統治者選びの10金星日(きんせいじつ)後、見事に聖帝国ムーが出来上がったの。
聖なる光と闇。光の方は、聖霊ルシリスの名からルシリス・シャーラトと名付けられ、闇の方は、聖霊ルーグの名からルーグ・ラトゼラールと名付けられたわ。

 もちろん聖なる光の統治者は、セロルナ。そして聖なる闇の統治者は、ロドリグス。
本来は……セイクリッドにも統治者になって欲しかったんだけど、「第3の勢力を出す気はない!」と、頑固なまでに言い張って、結局はロドリグスのサポートに徹していた。
まあ……仕方ないか……。

 シャーラトは聖帝国ムーの東に建てられ、ラトゼラールは西に位置していた。
私? 私はもちろんラトゼラールにいるわ。
セロルナはまだ良いとしても、ロドリグスやセイクリッドのような人達を野放しに出来ないでしょう。
只、私はラトゼラールが出来上がった後、ずっと奥の間に(こも)っていたの。
それは自分の力を高めるため。そう、あの時のような思いはしたくないから。
自分の力が足りなかったために誰かに嫌な思いをさせるのは、もう嫌だったの。

 けれど、そんな私の集中を邪魔してくれるかのようにセイクリッドやロドリグス、それに他のみんなまで、代わる代わるに私の部屋を尋ねてくるのよ!
どうしてこうなのかしら?

 そんなある金星日のこと、私の部屋の前で騒がしい声が聞こえる。もう! 何なのよ一体!
連日邪魔され続けて、ついに腹が立って扉を思いっきり開けた私の目の前には、セイクリッド、ロドリグス、アステルがバランスを崩し倒れ込んでいる姿。
アステルは、可哀想にセイクリッドやロドリグスの下敷きになっていた。

 ……なんなのよぉ! 貴方達は!

 頭を抱え、思い切り溜息を付き3人をジロリと睨んだ。

「……何の用なの? 貴方達は、毎度毎度……!!」

 私の言葉にアステルが、ヒクッと息を呑み込む。セイクリッドとロドリグスも顔を引きつらせているし……。
? 私、そんなに怖い顔でもしているのかしら? 失礼ねぇ!

「あ…あの、エリュクスに用事があって……。」

 アステルがおどおどしながら答える。あのね、お願いよアステル。そんなに怯えないでくれない?
ロドリグスやセイクリッドならともかく、他の人には酷い事するつもりはないんだから。

「なぁに?」

 セイクリッドが私の部屋を一回り見回した後、アステルに代わって話し出した。

「なぁ、エリュクス。……セロルナはどうしてる? 俺達はそれが聞きたくて、わざわざお前の所に来てやったんだぜ?」

 セイクリッドの一言にピキッと何かが音を立てる。“わざわざ来てやった”……ですってぇ? なんて言う言い種なの。

「……わざわざ! 私の所に邪魔しに来たって言うのはどういう了見なのかしら?」
「なんだとぉ!?」

 私は顔引きつらせながら、指をポキポキと鳴らす。セイクリッドも拳を構えている。
そんな私とセイクリッドの間に割って入るアステル。あろう事か、セイクリッドを庇うかのようにアステルが前に出る。

「あ、あの! エリュクスなら知っているかも知れないと思ったんです。
聖霊達とのコンタクトも上手だから……それで!」
「アステルの言う通りだ。……俺達の非礼は詫びる。どうか教えてもらえないか?」

 うーん……アステルだけじゃなくてロドリグスまでそう出るか……。
仕方ないわ。今日はアステルの顔を立てましょう。

「……判ったわ。ちょうど今シャーラトを映していたから……。セイクリッドの阿呆が見ているクリスタルに映し出されるわ。」
「な……! この俺が阿呆だとぉ!?」

 阿呆を阿呆と言ってどこが悪いの?
思わずいきり立つセイクリッドを羽交い締めにして押さえ込むロドリグスとアステル。
セイクリッドはすっごく悔しそうな顔をしている。
私はセイクリッドには構わず、クリスタルにシャーラトを映し出す。

 シャーラトでは、セロルナを「ラ・ムー」(輝きの頂点)と呼んでいたわ。
けれどセイクリッドとロドリグスの事は……シャーラトでは極悪呼ばわりされているの。
2人とも眉を吊り上げて怒っている。まあ……当然の反応よね?
あの時の2人って私から見ても極悪人に見えたもの。

「あいつらぁ!! 人の気も知らずに!!」

 ん〜……予想通りのセイクリッドの雄叫(おたけ)び。もうちょっと違う反応をしてよ……。

「……だが、セロルナはそう思っていないみたいだぞ?」

 ロドリグスが溜息を付きながら映し出されたシャーラトを見ている。
うん……やっぱりロドリグスが兄となって正解なのね。セイクリッドが不満そうに溜息を付く。

「…なあ、エリュクス? これって未来も見ることが出来るのか?」
「……え!?」
「あのなぁ、セイクリッド。そんな訳無いだろう?」
「だが、これってエリュクスの超常力(ちから)を模写したクリスタルだろ? だったら……。」

 セイクリッドの何気ない一言にドキッとした私。本当にこの人ってよく判らない。
見ているようでいて見てなくて、見ていない様でいてもきちんと見ている。
それに私の超常力を模写したクリスタルって……どうしてそんな事判るのかしら?
思わずセイクリッドの顔をじっと見つめていた私。

「セイクリッド?」
「はん?」
「……どうして、そんな事言えるの?」
「何が?」
「このクリスタルのこと…よ。私の超常力を模写したってなんでそんな事言えるの?」
「ああ……だって、クリスタルの質が、お前のマーナの質と同じ輝きを放っているから。だからそう言ったまでだが……?」

 あっけらかんと言い放つセイクリッド。絶句してしまったわ。
だって……本当のことなんだもの。
未来が見えるのかと言われた時、一瞬血の気が引いたわ。
確かに私の脳裏に映し出されるほど鮮明ではないけれど、漠然としたものは映し出すことが出来るから……。

 うーん……この鋭さ……侮れないかも知れない。
大胆かと思えば、他の人が気付かないような細部まで見ている。ホントに不思議な人だなぁ、セイクリッドって。

「……貴方達がここに来た目的はもう果たされたでしょう? セロルナ達のことが判ったからと言って、どうするつもりなの?」

 私からの質問に、ロドリグスとセイクリッドがニヤリと笑う。

「……そうだなぁ、宣戦布告……。」
「何ですって!? またバカなことをしようと言うの!?」

 ロドリグスの返答に思わず、大声を張り上げた私。ロドリグスとセイクリッドがクスクス笑っている。
思わず2人の苦手とするクリスタルを両手に出してしまったの。
慌てて私と彼等の間に入るアステル。

「ち、違いますよ! 何だってロドリグス様はそんな事言うんですか!」
「え? ……どう言う事なのアステル?」
「我等は聖なる闇として、ルーグ・ラトゼラールになったでしょう? 元々、彼等と仲違いするつもりはない。
でも向こうはそう思っていないかも知れないでしょう?
そうなったら、また新たなことで抗争の種にもなりかねない。
それでこれからロドリグス様が、聖なる闇の統治者としてルシリス・シャーラトに挨拶に行くんです。」
「……それ本当なの?」

 思わず尋ね返すとアステルが大きく頷く。そしてロドリグスとセイクリッドも。

「そう言うことだよ。聖なる闇の統治者として挨拶にいく。このままだったら、また新たな争いの種になりかねないだろう? そうならないように、セロルナ達と話し合うのさ。」
「……本当なら、二つも勢力はいらないんだが、こうなってしまった以上セロルナ達にも話を通すのが筋ってもんだろ?
それであいつ等の様子が知りたかったんだよ。」

 2人の言葉に呆然となってしまったの。
私が部屋にこもっている間、2人ともそんな事を考えていたのね。……争いを起こさないために……?
思った以上にこの2人は統治者として能力を発揮しているかも知れないわ。

「じゃ、そう言うことで。いくぞセイクリッド、アステル。」

 ロドリグスがあっさりと言い放つ。セイクリッドとアステルもロドリグスに付いていく。

「ちょ、ちょっと待って! それって私も行かなければ行けないんじゃないの?」

 私の言葉に振り返る3人。セイクリッドが軽く言い放つ。

「今日は、挨拶だけだぜ? 聖なる闇の総指導者としてのな。兄貴だけで充分事足りる話だぜ?」
「バカな事言わないで! 挨拶なら尚の事じゃない! 私も行くわ。」

 ロドリグスとセイクリッドが大きな溜息を付いて顔を見合わせる。
なんでそう言う大切な事を先に言わないのかしら? この2人は!
まったくもう! 先が思いやられるわ。

「でもいきなり行ってもシャーラトの方は、パニックになるんじゃないの?」
「ああ…それなら…もう先触れとしてアステルに伝えて貰ったからな。」
「はぁ!? 貴方達って……本っ当に好き勝手するんだから!!」

 私の言葉に大笑いするロドリグスとセイクリッド。何だか一抹の不安……。
本当に私、この2人の手綱を締めていけるのかしら?
せめてどちらか1人を引き受けてくれる人がいれば良いんだけど……。

 私の不安をよそにロドリグスとセイクリッドは、互いに笑い合っている。
結局、ルシリス・シャーラトに向かうのは、ロドリグスとセイクリッド、そして私。
途中まではアルセリオンの空間に入ったのだけれど、ルシリス・シャーラトが近付いたとき、空間転移をやめて歩いていくことになったの。
理由は……緊急時ではないからですって。

 ふぅん……以外にも向こうのことを考えているんだ。確かに私達が、空間からいきなり現れたら、また驚かすことになってしまうものね。
争いを避けたいって言うこの2人の気持ちは本心なのね。でも……あれだけ驚かされて、シャーラトが私達を受け入れてくれるのかしら?

 ふと、2人の顔を見ると自信ありげなのよね。まあ、いいか。
なるようにしかならないわね。
今度は私もいるんだし……何かあったらすぐに止めるわ。
ルシリス・シャーラトが、目の前に見える。
私が知っているルシリス・シャーラトは、まだ途中だったわ。
そうね、あの時から10金星日もたっているんですもの。
出来上がっていて当たり前かも知れないわね。

 知らず知らずのうちに緊張してしまう。ルシリス・シャーラトでは、私達はどういう風に思われているのかしら?

「あんまりガチガチになる必要ないぜ? どんな事があったって、お前には被害は行かないようにするから。ただし、余計なことは口出すなよ?」

 セイクリッドの言葉に何だか嫌な予感。思わずジロリと睨み付けたけれど、涼しい顔をしている。
うーん……この嫌な予感が取り越し苦労でありますように。

 そして私達3人は、ルシリス・シャーラトの中に入って行ったの。


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