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1.花見

1.花見

 今年も見事に咲いた桜の花々。満開の桜が私に話しかけてくるようで、ぼんやりと桜を見つめている。世間でも花見をしているらしい。公園や土手の桜の下で、宴会を行っている。
みんなでわいわい楽しむのも良いけれど、お気に入りの桜の下で一人で時間の経つのも忘れて見つめているのもとっても良いものだと思う。

 風が吹くたびに、フワリと桜の花びらが舞い踊る。地面に辿り着いた桜の花びらも、風が動くたびにしなやかに舞い上がる幻想的な光景。そんな光景を見るたびに、日本人に生まれてきて良かったなぁなんて、しみじみと思う。

 枝垂桜(しだれざくら)の枝も、風が吹くたびにさわさわとその枝を揺らして、空にピンク色の波を醸し出す。さわさわ、さわさわと何かを語りかけてきているかのように。飽きもせずに何時間でも眺めていられそうだ。

 遠い所から、人々の声が聞こえる。あれはきっと花見をしている人達なのだろう。楽しそうに笑っている声も、風に乗って聞こえる。2週間ばかりの短い桜。その可愛い姿と、潔く舞い散るさまが、私達に親しまれている桜。その姿をずっと留めて置けたらいいのにね。

 ふと私を呼ぶ友人の声でハッとなった。いけない、いけない。買い物の帰りだったんだ。どのぐらいこうやってお気に入りの桜を見つめていたんだろう。私を呼ぶ声の方に走っていく。何度もお気に入りの桜を振り返りながら。

「もう、どこまで買い物に行ってたの?」
「ごめんね。桜が綺麗で、つい足を止めていたんだ…。」

 私を呼んだ友人もついと私の後ろの方に眼を向ける。

「…明日休みだから、お花見でもする?」
「ううん、なんだか改まってお花見って好きじゃないの。あそこの桜が咲いている期間は、毎日見られるから良いかなって。」
「ふぅん、でもそうだね。確かに家にいても桜が見れるね。」

 私達のやり取りに背後の桜が、さわさわと笑っているように思えた。改まった花見をしなくても、舞い散るまで、毎日これが見られるんだと思うと、少し楽しみになる。友人が家の中に入った後、私は思わずもう一度桜を振り返った。

「ばいばい、また明日ね…。」

 それは一人の花見をさせてくれた桜への言葉。誰にも聞こえないようにひっそりと小さな声で、私はそう言った後、家の中に入っていく。


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