Novel
アグリア〜運命の女性達〜


流星の章 サーフィアル・エルン <シャーラト>

著者:真悠
913

 しーんと静まり返る女戦士達。

 ―――?
今、カーラ様は、何と仰ったのだ? ……巫女戦士となり、その務めを果たすが良い……だって?

 サーフィアは、ゴクリと息を飲み込み、カーラに尋ね直した。きっと今の言葉は聞き間違いであるのだと言うかのように。

「……カ……カーラ様? いま何と仰ったのですか?」

 サーフィアの質問にニヤリと笑いながら、あっけらかんと言い放つカーラ。

「そなたは耳が遠くなったのか? 私は、いま、そなたを巫女戦士に任命したのだぞ。」

 カーラの言葉に再び驚くサーフィア。

 な、何だって!? 巫女戦士!? この……私が!?
そりゃあ、女戦士である以上、巫女戦士には憧れては居た。いたけれど女戦士なら誰もがなれるわけではない。
女戦士にとって、巫女戦士は、最高の誉れでもあるし目指す称号だ。
でも、何故、それが私に!?
巫女戦士に欠員が出たなんて話、聞いた事がない。
巫女戦士と言ったって、たった5人しか居ないはずなのに!

 カーラの唐突な言葉に一瞬パニックに陥るサーフィア。

「……ああ、そうだ。言って置くが、反論は認めないからな。ラ・リューラ様にもその旨伝えてあるし、戦士長ラステートも知っている。
この決定に背く事は、シャーラトからの追放となるぞ。」

 カーラの言葉に目眩を感じるサーフィア。

 何なんだ!? この唐突な展開は! 既にラ・リューラ様や戦士長に話が言ってるって……! 断れば、シャーラト追放!?

 更にカーラの無情な言葉が響く。

「今日は、もう無理だが明日から、シャーラト城の奥にある星巫女宮が、そなたの住居となる。星巫女様達も、新しい巫女戦士が来るのを大層楽しみにしている。」

 思わずサーフィアが叫ぶ。

「カーラ様!!」

 しかし、サーフィアの言葉を遮るようにカーラが再び言葉をかける。

「そうだ、言い忘れていたが、そなたの荷物は、殆ど星巫女宮に送ってある。
それと、今日この時より、そなたは巫女戦士である事を忘れないように。
……本日の訓練はこれまで! 各自、明日の訓練に備えて、体調を整えておくように。以上! 解散!!」

 カーラがそう言うと、サーフィアの仲間の女戦士達は、戦士宮に向かっていく。
呆然としているサーフィアを睨み付けていく者、羨望の眼差しで見つめていく者。
仲間の女戦士の反応は、様々であった。
強いほどの憎悪の目でサーフィアを見ている者がいる。
ふと、視線を移すと4〜5人の女戦士達。

「嫌よねぇ、戦士になって日の浅い奴が、巫女戦士ですって!?」
「良いんじゃなぁい? 伯爵家の娘ですもの。巫女戦士になるために、父親の力でも使ったんでしょうよ。」
「ふん! 女戦士長のお気に入りですもの。でも信じられないわぁ。
あ〜あ、あたし達も伯爵家の娘だったら、すぐにでも巫女戦士になれるのになぁ。」

 あからさまな嫌味を言う、仲間達を睨み付けるサーフィア。

 何をバカなことを言ってるの!? 親の権力で、巫女戦士になれる訳ないじゃない!
星巫女だけじゃなくて、ラ・リューラ様も守らなければならないのよ!

 一言言ってやろうとした、サーフィアの肩をポンと叩く者がいた。カーラである。

「言いたい奴には言わせておくが良い。そなたの実力は、私や戦士長が良く知っている。
ラ・リューラ様とて、そなたなら安心だと<仰られたのだからな。
明日からは、これまで以上に気を配り神経を研ぎ澄まさなければならないのだから……。」

 カーラにそう言われ、頷くサーフィア。

 次の日、サーフィアは、自分の部屋に残った荷物を持ち、シャーラト城内に上がり、星巫女宮に足を踏み入れた。
シャーラトの真の中枢と言われるだけあって、派手ではないが美しい(たたず)まいを見せる星巫女宮。
星巫女宮と一言で言っているが、シャーラト城の奥津城のことである。
そこには、額に星の痣がある一般の星巫女10数名と、星巫女の中でも特別な称号を持つ星巫女が居る。

 アントゥの巫女――額に大きな星の痣が一つある者。
 トゥワナの巫女――額に小さな星の痣が綺麗な正三角形になっている者。
 パリトゥの巫女――額の中心に小さな星の痣が1個ある者と2個ある者。

 そして、その星巫女達をお世話する普通の巫女達。ラ・リューラ。
そして、彼女達を守る5人の優秀な女戦士である巫女戦士が暮らしているところである。

 サーフィアが、この星巫女宮に入って来てからずっと付いてくるサラーナの音と、クスクス笑う声。思わず、サーフィアは、自分のサラーナを確かめてみた。

 変だなぁ。星巫女にあっても失礼のないものを着てきたんだけど……。どこか、おかしな所でもあるかしら?

 一通り確認してみるが、別に何もない。では、何故こんなにも、星巫女達が笑っているのだろう?
フイに一人の星巫女が、サーフィアの側に近寄ってくる。

「貴女…、今度巫女戦士になったお方?」

 星巫女の言葉に、一瞬戸惑いながらサーフィアは微笑んだ。

「え……? はい。貴女達をお守りする事になった、サーフィア・ル・エルンと申します。どうか、末永く宜しくお願いいたします。」

 サーフィアが挨拶すると、一瞬、静まり返る星巫女達。

 が、次には、信じられないような歓声がわく。

「キャアー! なんて素敵な方!」
「見て見て! あの銀髪! 光に透けて、キラキラ輝いているわぁ!」
「なんて凛とした声! 凄く通る声!」
「あの瞳だって! ラムリアでは貴石とされているサフィール(サファイア)と同じ輝きを放っているわぁ!!」
「すっごい美人!」
「良いわ〜〜〜〜〜〜〜! あの中性的な魅力!」

 黄色い歓声に目眩を感じるサーフィア。最初に声をかけてきた星巫女が、サーフィアの顔を見ながらニッコリ微笑む。

「ようこそ。星巫女宮へ。サーフィア様。私達星巫女は、心より貴女のお越しを歓迎いたしますわ。」

 その星巫女に合わせて、歓声が更に大きくなる。

 こ……れが、あの星巫女達なの? どんな式典にも優雅な言葉を使い、穏やかな微笑みを浮かべていた人達なの?
信じられない。いままで私は、星巫女って特別な人達だと思っていたけど、とんでもない思い違いだったの?

 星巫女達の騒ぎに、奥の方から、一人の巫女戦士の姿が見える。
その女性は、青みの掛かった金髪、瞳の色はアクアマリン。髪は少しショートではあるが、美人であった。
しかし、その身のこなしから、ただ者ではないと感じるサーフィア。

 その女性は、サーフィアの姿を見つけると、ニッコリ微笑んで、右手を差し出した。

「貴女が、サーフィア・ル・エルンね? ようこそ星巫女宮へ。
私は、巫女戦士の一人、ルアラ・シルバーよ。宜しくね。」

 サーフィアも笑顔を浮かべ、右手を差し出した。

「何も判らぬ未熟者ですが、どうぞ宜しくお願いします。」

 ルアラは、サーフィアの言葉にニッコリと微笑み、サーフィアの手を握る。

「貴女の噂は、カーラやラステートから聞いていたわ。サーフィア、私達は、ラ・リューラ様や星巫女達をお守りする大事な役目を担っております。……共に、頑張りましょうね。」

 ルアラの言葉に、改めて巫女戦士の役目の重さを実感するサーフィア。

「はい。」

 サーフィアの返事にニッコリと微笑むルアラ。
サーフィアは、微かな不安が自分の胸によぎった事にまだ気が付いていなかった。


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