Novel
アグリア〜運命の女性達〜


流星の章 サーフィアル・エルン <シャーラト>

著者:真悠
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 そして、女戦士は上擦った声で、答える。

「も……申し訳ありませんティラ様! この少女が、余りにうるさくて。すぐに静かにさせますので。」

 ティラと呼ばれた女性は、女戦士の言葉にサーフィアの方に視線を移す。

「……? この娘は?」

 女戦士に尋ねようとしているティラ。自分に話が移ったことを察知し、ティラに頼み込むサーフィア。

「私は、戦士になりたくて、此処まで来ました! それなのにこの人は、ちっとも相手にしてくれないんです! お願いします!
私をこの女戦士宮に入れて下さい! お願いです!」

 サーフィアは、真剣な瞳でティラに訴えている。

「くどい! 帰れと言って……!」

 女戦士が、全てを言う前に、ティラがそれを制止する。ティラに制止され、黙り込む女戦士。暫くの間、ティラは、サーフィアをじっと見つめていた。

 珍しい銀髪。綺麗な顔立ちをしているが、その薄い蒼の瞳には、少年のような光を宿している。
彼女の意志の強さを裏付けるかのような強い輝き。思わず感嘆の声を上げるティラ。

「……ほう……?」

 ティラが漏らした言葉に、キュッと唇を噛むサーフィア。だが、じっとティラを見つめ、彼女から目を反らさない。
暫く経ってから、ティラが口を開く。

「……お前、名前は? 一体どこから来たのだ?」

 ティラの質問に一瞬躊躇し、口ごもるサーフィア。

「どうしたのだ? 名前も言えぬのか?」

 ティラが、サーフィアの言葉を促す。サーフィアは大きく息を吸い込み、ティラの瞳を見つめたまま、静かに答える。

「……サーフィア・ル・エルン…シャラの街から来ました。年は14歳です……。」

 サーフィアの言葉に、「え!?」と息を飲み込む女戦士。眼を見開き驚いた顔をするティラ。

 このシャーラトに執政官というのは、かなりの人数が居る。
勿論、執政官の子供の中には、戦士を目指し、戦士宮に入ってくる者もいる。
それ自体珍しいことではない。では、何故ティラと女戦士が驚いたのか……。
それは、サーフィアの名前である。

 執政官の中には、爵位を持つ者がいる。名前の前後にイムが入る者は男爵。
名前の前後にリムが入る者は子爵。名前の前後にルの入る者は伯爵。
そして、名前の前後にラの入る者は、侯爵となる。(男性の場合、名前の前に爵位が入り、次に名前そして、セカンドネームとなる。)

 彼女の家系は伯爵家ではあるが、エルン家と言ったら、シャーラトの爵位を持つ執政官の中でも屈指の名家であったのだ。

「……お前は、ル・ファド・エルン様のご息女なのか? そんな名家の娘が、何故戦士になりたいと思ったのだ? ……下々の生活を見るための冷やかしか?」

 ティラは、きつい言葉をサーフィアにかける。

「違います!」

 間髪入れず、大きな声で返答するサーフィア。サーフィアは、自分の両手を力一杯握りしめ、全身を震わせていた。

「……伯爵家の娘が、戦士になってはいけませんか!? 私、自分の幸せは、自分の手で掴みたいんです!!
両親の所にいたのでは、私は、只の人形になってしまう! 私利私欲のために使われる飾り物にはなりたくないんです! 両親とは、決別して来ました!!」

 サーフィアの燃えるような瞳を見つめているティラ。

「……サーフィア……と言ったな? 来るが良い。女戦士宮を案内しよう。」

 ティラの言葉に、サーフィアの顔が輝く。女戦士が驚きの余り、声を出す。

「ティ……ティラ様!?」

 ティラは、女戦士を見据えると、静かに言い渡す。

「ル・ファド様が、サーフィアを尋ねてきたら、私の所に通せ。私が話を付けよう。」

 ティラは、慌てふためく女戦士を余所にサーフィアに視線を向ける。

「……ああ、自己紹介がまだだったな。私は、ティラ・エリス。宜しくな。」

 ティラの自己紹介に、サーフィアがゴクッと息を呑む。

「ティ……ティラ・エリス女戦士長!?」
「ほう? 私の名前を知っているのか? わたしも結構有名なのだな。
……さて、もう夜も遅い。部屋を用意するから、ゆっくり休むが良い。
皆への面通しは明日の朝にする事にしよう。」


  ―――そして6年後―――

 戦士の訓練所。戦士達が、各々訓練をしている。

 私が、女戦士宮に入って、何年経つのだろう?
エルン家を飛び出したのは、14歳の時。……と、なると、もう6年も経ったのか。
そうか……。そんなに経つのね。
あの時、ティラ様がいらっしゃらなかったら、私は両親の元に強制的に帰されたかも知れない。

「サーフィア・ル・エルン! 何をぼんやりしている!? 戦いの中で戦いを忘れると言う事は、自分の命を縮めているのと同じ事だぞ!」

 その声の主は、新女戦士長のカーラ・マルズヴァーンであった。
サーフィアを女戦士宮に迎え入れたティラ・エリスは、3年前ひっそりと退役し、病魔に冒され亡くなっていった。
カーラは、ティラに認められ、新女戦士長に任命されたのであった。

「申し訳ありません!!」

 サーフィアは、姿勢を正し、直立不動になる。

「……何を考えているのだ!? 考え事は、死んでからたっぷりとするが良い!
やる気がないなら、戦士宮に戻って、休んでろ!!」

 カーラ様の仰ることはもっともだ。
訓練と言えど、戦いの最中、ぼんやりしているのは自分が、死んでも良いと言っているようなものだ。

「済みませんでした!」

 サーフィアの言葉にニヤリと笑う女戦士長カーラ。

「たるんでるようだな? 私がカツを入れてやる! どこからでも掛かってくるが良い!」

 ……本気でかかってこいと言う合図だ。カーラ様も本気を出すつもりか?
面白い! 一手、指南していただきましょう!

 カーラは、スラリと剣を抜き放つ。サーフィアも、剣を鞘から抜き、構えている。
廻りの女戦士達が、2人の様子に静まり返る。

 カーラ様の構え方は、一見隙がありそうだが、よく見るとどこにもその隙がない。
どこを攻める?
左右どちらから攻め込んでもカーラ様の攻撃が、私の急所にはいる。
……どこも隙がないのなら……正面しかない!

 サーフィアは、正面からカーラに切り込んでいった。カーラは、サーフィアの一の攻撃を避け、彼女の左側に回り込む。
咄嗟にサーフィアは、両手に持っていた剣を左手に持ち替えカーラの側面から斬りかかる。
それを待っていたかの様に、カーラの剣が、サーフィアの剣を交わす。

 カキーン!

 2人の剣が鋭い音を立てて、交わり合う。

 流石に女戦士長! 強い! お互いの剣の発する金属音が、私の中の何かを彷彿させる!

 やがて、どのぐらい2人は剣を交わしていたのか。
サーフィアの手のひらが、汗ばんできて握っている柄が、ヌルッと滑る。
それを見透かしたかのようにカーラが、力任せにサーフィアの剣を弾き飛ばす。

「くっ!?」

 サーフィアは小さく唸ると、懐にある短剣を取り出す。
カーラの剣先が、サーフィアの喉笛で止まった時サーフィアは、迷わずその短剣をカーラの心臓の前で止める。

 最初は意外な顔をしていたカーラだが、笑顔を見せて、剣を鞘に収める。

「良くやったな。サーフィア。この私に剣を弾き飛ばされても戦う姿勢を崩さない。
短剣を最後の手段に持ってきたか。」

 カーラの言葉にホッとした顔で、短剣を引くサーフィア。

「確かに、そなたの実力なら、我等が敬愛するラ・リューラ様や星巫女達も守ることが出来よう。サーフィア・ル・エルン!
巫女戦士となって、その努め果たすが良い!」


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